【移住者インタビューvo.2 】株式会社 漆琳堂 山西夏美さん

京都市立芸術大学で漆芸を6年間学び、越前漆器のまち鯖江市河和田にある創業約230年の株式会社漆琳堂に新卒入社した山西さん。
凛とした佇まいの中に、漆の可能性と魅力への真っすぐな想いを持たれているのが印象的でした。

塗師の職人としての道を志した山西さんに移住までの経緯を伺いました。

漆との出会いは大学でのオープンキャンパス。自分は漆に向いているかもしれないと思い美術学部の工芸科を受験。

ー山西さんは大学、大学院と6年間漆芸について勉強されてきたと伺いました。
 まずは、漆に興味を持ったきっかけについて教えてください。

山西「子どもの頃から、古いものや伝統的な工芸、日本文化に興味がありました。テレビ番組だと『和風総本家』が1番好き。そんな感じの小学生、中学生でした。

高校1年生のときに、日本画をやりたいと思い、芸大を受験することを決めました。ずっと、日本画志望で勉強をしていましたが、オープンキャンパスで漆の作品を見て、その美しさに素敵だなと心惹かれたんです。漆の方が自分には向いているかも、立体的な表現が自分に合っているかもと思い、志望の専攻を変え、漆に関する学びを深めることにしたんです。」

ーオープンキャンパスで漆に出会い、漆の世界に進むことを決意されたんですね。 
 大学で学んだことについて、詳しく教えていただけますか?

山西「大学では最初、工芸全般を学びました。漆を専門に学び始めたのは2年生の時です。自分の作品制作に取り組みながら、漆芸でも特に塗りの技法に興味を持ち、漆の可能性を広げることに焦点を当て、漆の美しさを活かした造形や技法について研究しました。大学院でも漆の新たな可能性や唯一無二の塗り方を探究しました。」

大学時代の山西さんの作品

ー漆琳堂では食器洗い機対応の漆、青やピンクなど漆の固定概念を超えるような色の開発など漆の新たな可能性を最前線で追求しているのが印象的です。
 大学での学びが現在の仕事にも活かされている部分はたくさんありそうですね。

山西「テクスチャーや質感の違いを工夫することは、実際の仕事でも非常に重要になります。例えば、漆は艶っぽいイメージがあると思いますが、ざらざらとした質感も表現できます。器だけじゃないプロダクトに活かせたらいいんじゃないかって話し合いながらサンプルもたくさん作っていますね。

漆琳堂はお椀を塗るのが得意な会社なので、長年蓄積されてきた塗りの技術に関しては全く敵わないんですけど、漆で色々なものをつくってきたことや大学で専攻の違う人たちと議論したこととか、そういうちょっとした経験に興味を持ってくれて話を膨らませてくれる社長や同僚と一緒に伝統工芸の枠を超えて、プロダクトとしての新しい可能性を模索することにもつながっています。」

面接だけでもしてくれませんか。
新たに職人を雇うことが難しい業界での就職活動。

ー実際に漆を仕事にするにあたり、作家と職人の道の選択に関して葛藤はありましたか?

山西「正直、作家として独立して自分の作品を作り続けるという道も考えていました。でも、職人としての道を選ぶことで、漆器業界における技術の伝承や、ものづくりに携わるという役割に魅力を感じましたし、作家としての活動を続けることは、会社にいながらでも可能だと考えたので、職人としての道を選ぶことにしました。職人としての技術や考え方を学び、そして自分の作家活動にもつなげていくことができるという点が大きかったです。」

ー職人として就職しようと決意されてから、漆琳堂に入社するまでにはどのような道のりでしたか?

山西「社長がSNSで求人してるってつぶやいていて、これはチャンスだと思い応募しました。でも、あと大学院1年残っている状態だったので、社長が探してる『すぐに働ける人』には該当してなかったんです。知らない顔して履歴書を送って、『すぐに働ける人を募集しているので違いますね』って返信が来たんですけど、面接だけでもしてくれませんかって食い下がったら面接してくれたんです(笑)
なんなのそのやる気は…みたいな感じだったと思います(笑)1年待ってもらう分、しっかり成長してくるので!
くらいの強気でアプローチしました。来年に改めて求人を出すからと伝えてもらって、数ヶ月後もう一度応募して、無事採用していただきました。

ー面接だけでもしてくれませんか?と、自分を売り込みにいったエピソードに山西さんの熱量を感じます。大学院まで漆器を学んでいても、職人として雇ってくれる会社は少ないのでしょうか。

山西「漆器業界は、生産量が年々減少していて職人を育てるほど余裕のある会社は限られており、就職先を探すこと自体が大変なのだと思います。独立か作家さんのところへ行って弟子入りするか、それ以外にある漆と関わりたいなら、伝統工芸品を扱う会社での販売や企画の仕事にするか。ジュエリー系や塗装管理、デザイナーになる同級生もいました。

その中で、正社員で職人を募集できる会社ってすごいことだと思うんです。

大学時代は一点ものを制作するようなアートワークばかりで、売るってことをあまり考えていなかったんですが、越前漆器は業務用漆器として効率よくたくさん作る中量生産ができる体制がつくられてきていて、漆器で生計を立てることが可能なんだ、漆芸を続ける道があるならと思って鯖江にきました。」

鯖江での新生活、慣れない環境の中で発見するおもしろさ

ー職人として漆器に関わり続けたいと気持ちが強かったと思いますが、馴染みのない福井での暮らしなどに不安はありませんでしたか。

山西「不安しかなかったです…。これまで住んでいた環境とはまったく違うので、未だに慣れてないところもいっぱいあります。毎朝、駅でコーヒーとパンを選んで1時間電車で通学する時間も好きだったなとか、意外と電車通学疲れてたんだなとか。今は、徒歩数分で職場までついてしまうので、楽にはなったけど、寄り道する場所もないし刺激もない。

とはいえ、ここで仕事をすると決めたので、好きなところをできるだけ見つけて、なるべく居心地よく過ごせるようにっていうのはしてますね。」

ー都市での暮らしとは良い意味でも、悪い意味でも違いはありますよね。
鯖江で暮らし始めて「郷土料理」がおもしろいと伺っていますが、地域の方々から教えてもらう機会はありましたか?

山西「社長のお母さんから色々お話を聞きました。お父さんは報恩講の時につくる呉汁が好きだとか、行事の時にはお母さんたちが作って何日かけて食べるんだとか。お母さんから聞いた通りに呉汁をつくって、失敗して、相談してたらしばらくして作ってくれて、これかー!ってなりました(笑)

この間は、お昼ご飯に会社全員で社長の家でおはぎを食べる日があったり、すごい温かいですよね。この人との距離感での人との付き合い方って今まで体験したことがなくって。苦手な人もいると思いますが、このまちの人たちは、行事や暮らしの関係性をみんなで一緒に作ってきたんだなっていうのはすごくいいことだと思います。戸惑うこともありますが、せっかく河和田で暮らしているんだったら誘ってもらったら出かけてみようかなとか、あそこのおばあちゃんに毎朝挨拶しようかなとか。」

1500年の越前漆器。歴史があるが古臭さはなし。
使い手がワクワクする漆の可能性をひたすら追求していきたい。

ー今後挑戦してみたいこととして、接客やマーケティングにも関わりたいということですが、接客や販売にも興味を持たれた理由を教えてください

山西「大学時代から『いいものを作っても売れなければ意味がない』と強く感じていました。経済性を考えずに良いものを作って賞をもらうだけで完結していては、限られた人にしか届きません。ものづくりを続けるためには、売る力や伝える力も必要だと思っていたので、学芸員免許を取ったり、アナウンススクールに通ってプレゼンの勉強をして伝える力を養いました。

今は、塗りの仕事以外にも営業や東京での展示会の接客の機会もあるので、どうしたら受注が取れるかなとか考えたり、お客さんの反応も素直にうれしかったりします。

販売の場面でもしっかりと語れたり、ものづくりの先のことまで考えられることも必要になってくると思いますし、職人だから工房にいなさいとか言わずに展示会に行かせてくれる会社の雰囲気もありがたいです。」

ー漆器は日常使いだとハードルが高かったり、お手入れが大変なイメージがあって遠い存在に感じる人も多いと思います。職人として、 これから漆の可能性をどう広げていきたいと考えていますか?

山西「赤と黒で蓋がついてるお椀のイメージで止まられてちゃもったいない!って思っていて、それだけでは売れないし、漆はもっと魅力的ですごい塗料なんだということを私たちは知っているので、もっと漆を楽しんでもらいたい。そう思って、日々サンプルやプロダクトをつくっています。

個人の活動でも、アートワークをつくり続けています。漆ってちょっとおもしろそうだぞって、みなさんに楽しんでもらえるようなやきっかけになれるように、これからも漆を勉強して発信していきたいと思います。」

教えて!鯖江ぐらしのホンネ!

Q.鯖江の魅力を教えてください!


伝統が、今もそのまま生活の中にあるところ。

特に郷土料理が好きです。

Q.移住を考えている人にアドバイスはありますか?


車にお金がかかって大変です…。

Q.お仕事がある1日のスケジュールを教えてください!



6:00 起床、身支度
7:00 制作
8:30 出社
12:00 お昼休み
18:00 退勤、食事や家事など
20:00 その日やりたいことをする時間。作品制作してることが多い。
1:00 就寝



株式会社漆琳堂

連絡先:TEL   0778-65-0630 
    MAIL  info@shitsurindo.com(担当者:内田)
住所     福井県鯖江市西袋町701

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