【移住者インタビューvo.3】株式会社 土直漆器 樋口朱音さん

京都精華大学でプロダクトデザインを学んでいた樋口さん。

立体表現に使用するさまざまな素材を理解するために布、紙、真鍮、木材、粘土、樹脂、そして漆の基礎知識を学んだ大学1年生。

ちょうどその頃、友達から「制作と販売、どっちもできるよ!」と河和田アートキャンプに誘われ、越前漆器のまちである鯖江市河和田町に訪れました。

そこから漆器の世界に魅了され、伝統工芸職人塾を経て、現在は土直漆器で塗師として働かれている樋口さんの移住までの経緯を伺いました。

※河和田アートキャンプ・・・河和田を拠点に県内外の学生を受け入れ、学生のもつ知性・感性・創造性を有効活用しながら、河和田地区の活性化を図る鯖江市のまちづくりの取組み。

河和田アートキャンプで経験した、漆のおもしろさ、ものを販売するおもしろさ

樋口「京都精華大学にはいろんな素材に触れられるところに惹かれて入学しました。河和田の木地師、塗師、蒔絵師さんの工房で見た仕事姿と格のある漆器を見て感動したのを覚えています。大学では模型製作などのビジュアル表現どまりになってしまうと思い知らされましたね。」

―初めて参加した河和田アートキャンプでは、どのようなプロジェクトに参加しましたか?

樋口「地酒プロジェクトに参加しました。毎年、地域の方と一緒に田植えをして収穫をして地酒をつくって販売するプロジェクトなんですが、この年は、漆で酒器(おちょこ)を制作しました。6人の学生が職人さんに弟子入りさせていただいて、24種類50個の酒器を制作、販売しました。」

―とてもおもしろいプロジェクトですね。樋口さんは翌年からプロジェクトに「参加」ではなく「立ち上げる」側に変わられてますが、モチベーションの変化などありましたか?

樋口「酒器をつくった大学1年生の冬、メンバーと次年度にやってみたいことを発表していたんですが、漆に関係するプロジェクトがなくって。じゃあ、自分で立ち上げるか!って思い立ちました。ものづくりだけでなく、販売までしたい。お金を払ってまでほしいと思ってもらえるものをつくりたいと思ったんです。」

職人さんの前でメンバーとの大喧嘩。ものづくりへの想いでぶつかったからこそ、職人さんも向き合ってくれたことで人間的にも成長できた。

―大学2年生の時には地酒プロジェクトと別に「ROOTプロジェクト」の立ち上げもされたそうですが、どのようなことをされていたのですか?

樋口「漆のアクセサリーの制作と販売をしました。様々な技法で、120パーツ54個をつくりました。

正直、めちゃくちゃ大変でした…(笑)。漆には乾燥する時間が必要なので、夏休みの長期合宿で制作を始めていては間に合わないことが判明しました。アイデアをじっくり考えたい半面、指導してくれる職人さんへのアポイント、材料の調達、漆の乾燥を含めた一日で出来る作業の逆算…など段取りをしないと実現できない…。鍛えられましたね…。」

ー制作から販売まで!それはすごい根気のいる作業ですね…。ROOTプロジェクトでは、プロジェクトリーダーもされていたということで、「制作」と「販売」以外の部分にたくさんの葛藤があったと思います。

樋口「準備の重要さ、大変さを実感しました。メンバーをまとめる経験もなく、自分自身のやりたいこともたくさんあり、恥ずかしいことに職人さんの前で、メンバー同士で大喧嘩してしまったんです。それまでは、職人さんの前では、きりっと、整ったものを見せなきゃって思ってたんですけど…そんな上手くいくわけもなく…。

でも、その喧嘩を見た職人さんが、『お前らの熱意は伝わった。そんなに本気になってくれてうれしいよ。』って笑ってくれたんです。そこからお互いの接し方が変わっていったような気がします。」

―熱意が伝わるできごとですね。そうした思いの中、学生メンバーとも、職人さんとも本気で作りあげたアクセサリーですが、販売をしてみて、お客さんに買ってもらった瞬間はどのような感覚でしたか?

樋口「売れた…。認めてくれた…。純粋にうれしかったです。

300円でもかわいいアクセサリーが買える時代で、本物の漆でつくったアクセサリーの価格をどのように付けるのか、職人さんとも相談しました。『100円で売ってもいいけど、それで買ってもらってもうれしくないだろ。』っておっしゃっていただいて、、2500円~6000円くらいの頑張ったら手が届くような価格帯にしました。」

ー価格設定は難しいものですよね。買ってくださった方で心に残っているエピソードはありますか?

樋口「一度手に取って悩んで、別のお店に行ったのに、わざわざ戻ってきて買ってくれる子連れのママさん、
『これ、いただくわ』って大振りのピアスを買ってくれたおしゃれな奥様も、
『メンズもありますか』ってわざわざ聞いてくれた市役所の男性も
一人一人今でもすっごい覚えています。

地域のカフェで偶然出会った人に自己紹介がてらROOTプロジェクトの話をしたら、『これ持ってる!あなたがつくってたの!!』って購入してくれた方と巡り合ったときは、めちゃくちゃ興奮しました(笑)

アートキャンプの学生を応援する気持ちで購入して頂けるのも、純粋にかわいいと思って購入していただけるのもうれしいですね。」

河和田で塗師になりたい。職人を募集してないのはわかっていたけど、直談判して掴んだ職人への第一歩。

―これまで河和田でいろんな経験をされてきた樋口さんですが、学生時代に河和田の職人さんと深く関わったことがきっかけで塗師への覚悟が固まったと思います。土直漆器への入社までの経緯を教えてください。

樋口「3年生の冬に就職活動を始めました。その頃、職人の道も捨てきれず、河和田の職人さんや移住した先輩に土直漆器に就職するためにはどうすればよいか相談をしていました。社長にも直談判して、河和田の色んな漆器屋さんを見て土直漆器のものづくりに惹かれたことを伝えました。社長が、職人塾っていう制度があるから、まずはそこから始めようかと提案してくれました。」

―すごい、直談判ですか!漆職人への道は狭き門のような気もしますが、実際どれくらいの方が希望されたり、募集があったりするのでしょうか?

樋口「毎年の募集はありません。でも、見学や相談には親身に乗ってくれます。私と同じく今年正社員で入社した同期は、教授に紹介状を書いてもらいインターンを経て、入社に至りました。

職人塾の制度も年や産地によって、雇用期間や採用人数も変わってくるので毎年チェックするのが良いと思います。」

田舎なのに賃貸物件が高い!そこで始まった河和田の古民家でシェアハウス生活

―就職当時、河和田アートキャンプの同期3人でシェアハウスを始めたと伺いました。どのような経緯で始まったのでしょうか。

樋口「市営のシェアハウスに入居したいと思っていましたが、抽選で落ちてしまって、別の職人塾生の子が入居しました。今思えば、抽選で落ちたのが私で良かったなって!和紙職人になる同期の家に転がりこむ覚悟でもいたし、古民家にも出会えたので。

鯖江って築年数が新しいアパートが多いので、一人暮らしにしては家賃が高いなと思っていたところ、当時のアートキャンプの事務局をされていた方に古民家を紹介してもらいました。3人集めれば1人2万で住めるぞって言われて(笑)

そこで、木工職人と地域おこし協力隊になる同期を集めてシェアハウスを始めました。」

―おもしろいご縁ですね!暮らし始めて戸惑いなどはありませんでしたか?特に河和田は豪雪地帯でもありますが、そのあたりについてお聞かせください。

樋口「私自身、ほぼ雪が降らない地域で生まれ育ったので雪は恐怖でした…。それもあって、雪かきの人手ほしさにルームメイトを探していました(笑)

雪が積もり始めると、まず駐車場の雪かきをしなければ出勤できません。

最初の方は、積雪に憧れがあったんですけど、あまりの雪に死を感じました(笑)

物件によっては、駐車場に融雪スプリンクラーが常備されているところもあるので、雪かきが不安な人にはおススメです!備えあれば憂いなし!今のアパートにはついてませんが…。

あと、雪かきスコップやスタットレスタイヤの物置は大体どの物件にもあります。雪国にしかない設備で、新発見でしたね(笑)」

―なるほど…雪国ならではの暮らし方ですね。この話を聞くとシェアハウスを移住の選択肢に入れている人もいるかもしれません。シェアハウス歴が長い樋口さんが感じる、重要なポイントがあれば教えてください。

樋口「生活リズムが一緒すぎないのは気を遣わないので案外いいです。お互い家にいたら、一緒にご飯食べちゃう?って楽しくなりますし、寂しくなったら個室の扉をノックしてリビングでしゃべったり。同じサークルで共同生活をしていたのもあって、生活スキルはなんとなく把握してたこともあり、楽しんでシェアハウスしています。

将来的に、結婚とか転職とか何かの理由でシェアハウスを解消する可能性もあるので、今を目一杯たのしみたいですね。」

まだまだ漆職人として成長していきたい

―これまで職人として、河和田の人として、そして一人の社会人としていろんなお話を伺いました。最後に、今後挑戦してみたいことを教えてください。

樋口「今は下地をメインに、たまに中塗りをさせて頂いています。上塗りを任せてもらえるように頑張っています。仕事以外でも加飾の技法である沈殿や螺鈿に挑戦してみたいです。」

教えて!鯖江ぐらしのホンネ!

Q.鯖江のお気に入りの場所は?


カフェのベルベールによく同僚と行きます。
半分植物園みたいなところで、パフェが美味しいです。

Q.鯖江の魅力を教えてください!


河和田は漆器屋さんや工房がとにかく多く、ひとつの工業地帯みたいになっているところが魅力です。

会社の仕事でも蒔絵師さんにお願いすることもあるのですが、この地域で作っている一員になれたようでうれしいです。

Q.移住者へのアドバイスがあれば教えてください!



車とスタッドレスタイヤ。
あとは、雪かきを一緒にしてくれるルームメイトかな(笑)


株式会社 土直漆器

連絡先:TEL  0778-65-0509
住所    福井県鯖江市片山町 6-1-2

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