【移住者インタビューvo.8】移住という言葉と自分自身について考える。

「鯖江の移住者図鑑」と題したインタビューをする中で、
若者の多くは就業を目的とした「就職のための転居」であり、「移住」という言葉への遠慮や居心地の悪さを感じている方もいらっしゃいました。
鯖江に引っ越しをしてくる移住者と、それを受け入れる地域住民では、「移住」という言葉に対するイメージの違いがあるのではないでしょうか。
例えば、地域住民にとっては「移住は、都市から地方に引っ越してきた人」という認識で移住者に話しかけたとしても、
移住者本人が「移住には永住するというニュアンスが含まれているように感じる」と思ってしまえば、「移住」という言葉が、お互いが意図していないところでプレッシャーになってしまっているかもしれません。
移住者インタビュー8人目は、
移住の理由に多い「就職」「結婚」「跡継ぎ」以外の理由で、鯖江に縁があり暮らしている方です。完全な言葉にならない悩みやもどかしさも含めて読んでいただければと思います。
―今日はお時間をいただきありがとうございます。このインタビューをお受けいただくにあたって、Aさん自身たくさん葛藤されたとお聞きしました。
鯖江に移住したきっかけなどをお聞きする前に、どのような葛藤があったのかお聞きしてもいいですか?

A「正直、何を(何の仕事を)しているんですか?なんでここを選んだのですか?という質問が苦手なんです。私の場合は、仕事や結婚が理由ではないので、質問に簡潔に答えられず…。せっかく質問してくださったのに、その人が納得できる言葉すら私も見つけられていないことにもどかしさを感じます。
そんな中、移住者としての経験をお話してほしいというインタビューをお受けするか悩みました。鯖江に住み始めてから1年もたっていないですし、住み続けるという確証もない中、私がお話することは無責任にならないか?と…。なので、移住者を代表して言葉にするというよりも、ある一人の言葉として、今感じていることをお話させていただければと思います。」

―誰にでもモヤモヤとした気持ちはありますよね。そのあたりを少しでも言語化していければと思います。早速ですが、「移住」という言葉にはどのようなイメージがありますか?また、ご自身に移住してきたという認識はありますか?
A「移住という言葉には、『計画性』『能動的』『意志を持って』という主体性や熟考した結果というようなイメージがあります。
私自身は計画して住む場所や働く場所を決めてきたタイプではないので、移住という言葉はしっくりこない。
自分は感覚的に反応、行動した結果『今、ここに居る』というのが本心です。
でも、一旦ここに居てみようと思えた魅力やいろんな方とのご縁は確かにある。
だからこそ、どうやったら居続けられるかを日々考えて手探りしています。」

―様々な場所を転々としながら、暮らしたい場所を探してたどり着いたのが鯖江だったと聞いていますが、鯖江との関わりはなんだったのですか?
A「私は広島県出身で、6年前までは広島にいました。広島の中でも転々としたり、瀬戸内の島や石川に住んでみたり、気になった土地をあちこち車中泊しながら、暮らしたい場所を探してもみました。京丹後のシェアハウスに住んでいたときに、ものづくりができる仕事って何かないかなと探していて、たまたま越前市の手すき和紙の求人を発見して、和紙の工房を訪れたのが最初の福井でした。
和紙漉の現場を見て、おもしろそうだなと思って他の工房もみてみようと思い、今立支所に立ち寄りました。そこで、RENEWというイベントがあることを知り、そのタイミングで越前市に訪れました。
そこから、いろんなご縁が重なって、今住んでいる古民家の家主さんに出会い、その家に住んで暮らしてみようと思い鯖江に来ました。」
―なるほど、漂いたどり着いた場所が鯖江だったという感じなんですね。移住者と言われることへの周りのプレッシャーを感じることはありますか?
A「周りのプレッシャーというよりは、自分の中の内なる批判者的な声のプレッシャーが大きいかもしれません。「一般的」とか「普通」とか「社会性」とか、誰か特定の人が言っているわけではないのに、自分の中にいつの間にか存在させていまっているものが大きくなってしまっていて…。
この場所で何ができるか、自然発生的に出てくる、やってみたいこと、できることを積み重ねていった結果、居続けられたってだけのような気がします。」

―鯖江に移住する人の多くは就業を目的としています。その人たちが移住したことによって人口が1人増えても、その1人が地域コミュニティーに入っていけるか、まちそのものを好きになって住み続けたい、居続けたいと思ってくれるかは別問題ですね。あくまでも結果論というのは共感します。
A「ここに来て日が浅いので、ご近所づきあいが数えるほどしかなかったのですが、雪かきをしていると、自然な流れで少しずつ地域の方と関わるきっかけもできてきたと感じています。コミュニケーションに苦手意識があり、関わり方が分からないタイプの人間からすると、関わる状況がある環境というのもひとつのきっかけのように感じます。
実際に暮らしてみると、人と人との付き合いが生まれます。地域住民の方にその地域特有のしきたりや礼儀などは訊いたり、教わらないと知り得ないし、そこで暮らしていくには大切であり、必要なことだと認識しています。そこで、暮らすうちに自分のできること、また、求められることがあり、その中にはできないこともあるし、すぐかたちにはならないことも多いけど、それらを日々手探りしながらいろんなことを積み重ねていけたらと思っています。」

「移住」という言葉が重りになって一歩を踏み出せない方も、
居続けられたら居続けるくらいの感覚がちょうどいいのかもしれません。
むしろ、そんな悩みや不安を開きながら、自分自身にしっくりとくる言葉を探してみませんか?