田中忠 | 今年で創業100周年。積み重ねた実績で安心感と技術力を感じる会社。
質の高い「中間素材」にこだわり、難易度の高い織物製品を製造する田中忠株式会社。
ここは、さらなる高品質を目指しながら新しいことにチャレンジしていく、福井の繊維製造現場です。
田中忠は、大きな繊維工場がたくさん集まる鯖江市の神中町にあり、関連工場も含めると現在84名のスタッフが働いておられます。
繊維関係の会社は、自社webページや紹介記事等での情報発信をされていない会社が多く、取材前のリサーチが上手く出来ないことが多いのですが、田中忠はwebページがしっかり作り込まれているので事前のイメージを膨らませて行くことができました。しかし、実際に社長やスタッフの方にお話を聞くうちに、ここはじっくりと人が育つ環境のある会社なんだ…と、いうことを実感しました。
「成長=拡大」ではなく、継承する人がいてくれれば、産地が縮小していく中でも成長はできる。
人を大切にする田中忠のことを、この記事を読んでぜひ知っていただければと思います。
自信があるからこそ、ブレずに商品開発力で勝負する。
今回お話を伺ったのは代表の田中亮輔(たなか・りょうすけ)さん。1976年に入社され、2004年から現職として、活躍されています。
「弊社は1921年に創業し、今年で100周年を迎えます。会社の成り立ちとしては、絹織物(羽二重)からはじまり、レーヨン、ポリエステルと、福井における繊維の歴史の中で歩んできて、現在ではポリエステル100%の商品を作っています。」
合繊織物の産地である福井県。合繊に関しては、すべての製造工程を自社で完結させられる設備構成になっているという田中さん。
「商品構成はバラエティに富んでいて、百貨店に並ぶような婦人者アウターなどアパレル関係、スポーツカジュアルウェア、軽量のダウン等アウトドアファッション、カーテン等インテリア、ハーブティなどに使われるティーパックを作っています。ヨーロッパのスーパーブランドにも採用されていますし、ティーパックを織る糸も植物由来の原料から作られています。
しかしあくまでもうちは『中間素材』を作る会社なので、最終製品までは作っていません。我々が作った中間素材は、他社で染色など色々な工程を経て、最終製品になっていきます。」
幅広い製品になるための生地を作っておられる田中忠。中間素材を作ることに対して、強いこだわりと考えを持っておられます。
「最終製品を作らない繊維産業では、昔から生き残りの方法として、自分で作ったものを自分で売るのが良い、と言われるのですが、私は常に自販については『やりません』と答えてきました。なぜなら、委託加工であっても、我々から逆提案することは、ある意味で自販以上の効果があると考えているからです。言われたものだけを作っているわけではなく、独自に開発したものをクライアントにプレゼン提案している。逆提案ができれば委託加工も上手くいきます。自社製品を作って販売することは、一つの方法かもしれません。しかし、自社の中で閉じるのではなく、弊社はこれまでの実績を信じて、商品開発力をアピールすることが重要だと考えてきました。」
クライアントが田中忠に発注するにあたり、安心感を持ってもらえることが何よりも大切だと話します。そのためには、設備と人への投資が重要だと考える田中さん。
「田中忠さんにお願いすれば何とかしてくれるだろうという技術的な信頼感を勝ち取るため、設備とスタッフは重要視しています。効率も上がり、品質も上がり、雰囲気も良くなる。自販というのは魅力的に見えるのだけど、そんなに簡単なことではないし、誰がやっても良いというものではないんです。」
流行りに流されず、会社の軸を大切にする田中社長の強い意思と、それを裏付ける高い技術力を感じました。
成長のカギはスタッフ。誰もが伸び伸びと仕事できる環境づくりを。
田中忠の強みは、スタッフがじっくり育つことのできる環境だと話す田中さん。田中さん自身も、同社での長い勤続経験の中で先輩方に育ててもらってきたお一人です。
「弊社では、まず現場に入ってしっかりと技術を身に着けます。機械が好きな人や、色々なことに興味がある人が多いので、先輩たちも率先して指導にあたってくれています。また、職人だけでなく営業職にもしっかりと技術力を身に着けてもらいます。常にこういう仕事は、営業と技術を両方持ち合わせ持たないといけないと思っているからです。うちは現場に出ながらメーカーに同伴をして営業をするスタイルなので、メーカーの知識と弊社の技術を持って動くことになります。」
田中忠の営業はセールスエンジニア。自社で製造可能なのか、どういう工程が必要になるのか、営業先で即座に判断することが求められます。求められるスキルは高いですが、その分成長できる環境であると感じました。
「これからの田中忠は、若い人にも責任のある部分を任せていく形にしていこうと考えています。本人の頑張り次第ですが、早くに大きな仕事を任されることもあるので、やりがいやチャンスがある環境であることは間違いありません。」
自分たちが生み出している素材が世の中に求められていて、凄いものを作っているという意識と自信を持ってほしいと話す田中さん。現場からは最終製品が見えづらい業界の構造を少しでも是正しようと、スタッフとコミュニケーションを取っておられます。社長自ら現場に立ち、今自分たちが製造しているものがどういう商品に活かされているのかを伝えていくことが大切なのだとか。
「田中忠に限らず、日本のものづくりが高品質ということは世界的に有名ですが、クオリティというのは、品質だけではなく納期管理なども含まれます。優秀な会社はバックオフィスもしっかりしている。弊社は職人だけでなく、バックオフィスの人材育成もしっかり行っていきたいと考えています。」
成長のカギは「スタッフ」である、と強く話す田中さん。
社内がどのような雰囲気であるのか、実際にスタッフの方にもお話をうかがいました。
転職を重ね、希望していた「繊維製造の一連の流れを経験できる仕事」に携わる。
越前町出身で入社7年目の吉留滉尭(よしどめ・ひろたか)さん。田中忠に入社されるまでは、繊維関係会社、鳶職、機械設置の仕事と、色々な職場を経験されてきたそうです。
「この会社は、雰囲気が明るいな~と思っています。みんな自分の持ち場は責任を持ってこなししつつ、仲が良くて働きやすい職場です。」
入社当初は、地元越前町にある田中忠の工場勤務からはじまり、鯖江に移動して2年、現在は機械の保全、仕掛け、メンテナンスを主に担当されており、ティーパックの生地を作っておられます。
「学校を卒業して最初の仕事が繊維会社で、撚糸(糸によりをかけること)の仕事をしていました。繊維の一連の流れに携われる仕事ができたら良いなと思い転職しました。」
最初は失敗ばかりで思うように仕事ができず、落ち込んだこともあったそうです。今では1巻を1~2時間で完成させることができるようになったと、吉留さんの上達具合がうかがえます。
「自分が仕掛けて綺麗に織り上がったときは面白いし充実感がありますね。入社7年目で結構慣れてきましたが、まだ経験していない織り方などが出てきたら、社長や先輩にアドバイスをもらいながら身に付けていきます。まだ未熟なので覚えることがたくさんありますが、どんどんチャレンジしていけたらと思います。現場からの素材提案なども、どんどんやっていきたいですね。」
社長が現場にいるときは直接教わることもあると話す吉留さん。ここ2年で若いスタッフが増えてきたようで、教える側にも回り奮闘されています。
福井の産地を少しでもPRしたい。コロナにマインドを折られず次の一手を打つ。
福井の繊維産地は最終製品を作っているわけではないので◯◯を作っているとPRできず、機会損失が大きい。このことは、繊維会社の経営者の皆さんが共通認識として思っておられることです。田中さんはその現状に対し、少しずつ行動を始めておられます。
「最終製品に名前が載らないからアピールが難しい、我々もwebページに掲載するわけにもいかない…。名前を言えば皆さんが知っているような商品は、この産地内に本当にたくさんあります。なんとかアピール出来れば産地全体のモチベーションがあがり、閉塞感の打破に繋がります。例えば弊社の例でいうと、銀座にある有名な商業施設の壁面には、全てうちの生地が使われています。」
素材までは注目されない中、どのようにスポットライトを当てるか、試行錯誤を重ねておられます。
「我々は産元商社やメーカーに製品を納めて終わりなので、最終製品を作る会社にコンタクトできずその先のことはわかりません。ですので、こういう製品になりましたというアピールをお願いするところまで辿り着けないのです。
そこで、『福井』で作っているとわかるタグをつける動きを、福井県織物工業組合が直接生地を納めているアパレル会社との間でスタートしました。まだ詳しいことはお話できませんが、自販でないものをPRできる、この種を大きく育てていきたいと考えています。
言えないのが惜しいけど、すごいところに使われているんですよ!というのを一番PRしたいんです。オフィシャルに公表するわけにはいきませんが、鯖江に来てくれたらいくらでも教えますよ(笑)」
自社のことだけではなく、産地全体の未来を考えたアクションを起こす田中さん。
ガチャマン時代のように浮足立った華やかさはありませんが、これからの未来をしっかりと絵描いていける産業だということを教えていただきました。
若いスタッフも多く働いておられる明るい職場環境。その中で、しっかりとした技術を身に着けていきたいという方は、田中忠にぜひご連絡を。
【連絡先】
田中忠株式会社
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TEL:0778-34-0460