第5回鯖江“育職住”ツアー開催レポート

2024年9月9日に鯖江の「子育て(育)、仕事(職)、暮らし(住)」をキーワードとした、暮らしやものづくりを体験できる「第5回鯖江“育職住”ツアー」を実施しました。

今回のツアーに参加したのは、芸術や建築、デザインを学ぶ京都市内の大学生や社会人の合計10名。

大学1、2年生にとっては初めてのものづくりの現場となります。

市役所のマイクロバスに乗り込み、まず初めに向かったのは御幸町にある株式会社Plus jack。

店内に入ると、優しいパステルカラーの眼鏡や雑貨、そして特徴的な眼鏡とニコっとした笑顔が素敵な津田社長が「ようこそ」と迎え入れてくださり、鯖江眼鏡の長い歴史についてお話いただきました。 津田社長「眼鏡づくりは約120年の歴史があります。まずは眼鏡産業の始まりと会社の概要について紹介しますね。」

津田社長「北陸は豪雪地帯なので冬に農業ができません。その間は、男の人は県外に出稼ぎに行くけど、鯖江のまち自体が発展していかない。それを見ていた増永五左エ門という人が新聞や書籍を読む活字の時代が来ると予測して眼鏡づくりを始めました。

眼鏡づくりは非常に複雑なので、増永さんは、金属を加工するという共通点から鍵を作っていた村の宮大工を頼りました。そこで、学校に通っても読み書きができず、家事や雑用をさせられていた娘さんを見て、眼鏡をかけさせてみたところ、

『お父さんとお母さんの顔が見える』と涙を流したそうなんです。その出来事がきっかけで増永さんと宮大工による眼鏡づくりが始まったと言われています。

※Plus jackのビジョンマップ

津田社長「会社が木で、商品はリンゴ。従来だと、リンゴ(商品)が都心に出荷され、 産地に残る利益が少なく、消費者と生産者に距離があった。鯖江では分業が進んでいるが、それぞれの木(会社)は根っ子の部分では深く繋がっている。その強みを生かしたものづくりをしていきたい。」

※工場の中には眼鏡フレームの材料となるアセテート材や機械がずらり!

学生「眼鏡づくりって図面はありますか?作業が繊細すぎて…図面を描くのも、読み取ってカタチにするのもすごく難しそうだなと思いました。」

津田社長「図面はありますよ!でも、メーカーさんによって図面の精度は様々です。手描きスケッチものから3Dデータで断面の詳細図まで全部の数字を書くメーカーさんもいます。

難しいのは、メタルフレームの耳にかかる部分の工程で、後からプラスチックを差し込む作業があるんですが、その入れる時の堅さが

『ぐっとしてくれ』とか、『ぎゅっとしてくれ』とか、『ぎゅぎゅっとしてくれ』とか、擬音語での注文がきます。無理難題だ!って頭を抱えてしまいますが、数字で表現しきれないところまで意図を汲み取ってつくっています。」

学生「鯖江の眼鏡の一番の魅力は何だと思いますか?」

津田社長「大量生産には大量生産の良さがあります。大量に作っていくことで、 生産コストを抑えられますしね。それなのになぜ鯖江の眼鏡は大量生産をしないのかというと、1つは大量生産にはできない幅広いサイズ展開ですよね。例えば、こども用の眼鏡として 5サイズ展開しています。形状やカラーの小回りの利くカスタムオーダーができるっていうのが最大の魅力ですね。」

今までは鯖江の眼鏡ってなんでこんなに高いのだろう?と思っていた学生も

眼鏡づくりの繊細さや緻密さを知り、今は買えないけどいつか鯖江で眼鏡を買おう!と思わずにはいられなくなったのではないでしょうか。

眼鏡づくりの歴史と工程を一通り学び、続いて向かった先は株式会社キッソオ

バスを降りると、スタイリッシュな佇まいの工場が目に飛び込みました。中ではキッソオの吉川社長が出迎えてくださり、会社についてお話を伺いました。

吉川社長「当社は眼鏡の材料商社です。眼鏡を作る上で必要な金属やプラスチックなどの材料、眼鏡を構成する部品、加工するための機械の販売をしています。眼鏡を作る上で様々な困りごとを解決する会社ですね。」

キッソオのパンフレットを見てみると、そこには眼鏡づくりだけでなく上品なアクセサリーも載っています。

眼鏡の材料について熱く語る吉川社長

吉川社長「眼鏡の材料屋さんは鯖江でも15社ほどありますが、鯖江眼鏡の生産量が減少していることと、差別化が難しく価格競争だけの世界になっていく中で、何か新しいことに挑戦しようと思ったんです。でも、眼鏡ブランドを作っても、ぼくたちのお客さんである眼鏡屋さんとバッティングしてしまう。

そこで、アクセサリーブランドに挑戦しました。

最初につくった指輪はまあまあきれいにできて、お客さんからの評判も良かったんですが、百貨店のバイヤーさんには

『指輪だけじゃアクセサリーブランドっていえないから、ピアスやバングルなど、ラインナップを充実させてみたら?」』と言われ、今のラインナップに繋がっていきました。」

その中でも眼鏡の素材屋からアクセサリーブランドとして、キッソオという会社名を社会に広めるきっかけになった商品が、眼鏡のフレームと同じ素材でつくられた耳かきです
しかし、大ヒット商品の誕生の裏には、キッソオらしさとは何かという葛藤もあったと言います。

吉川社長「大阪のデザイン会社からの提案で耳かきを商品化して、大ヒットしました。どこに行っても耳かきの会社ですよねと言われるくらい(笑)でも、販路開拓もデザインも任せていたし、製造も外注していたので、右から左にモノが流れていくだけの感覚でした。

これはまずいと思い、アクセサリーにもう一度力を入れることにしたんですけど、

担当社員がおしゃれに疎いおじさんたちばかりだったので、まずはデザイナーを探すところから。

最初に入ってくれたデザイナーのおかげで、展示会のブースやカタログがかっこよくなったねと多くの方から褒められましたが、キッソオの昔からのファンや社員からはキッソオぽくないとか、ちょっと違うとか言われてしまいとても悩みました。」

いろんなデザイナーと試行錯誤する中で、現在担当してくれているデザイナーと出会い、今のかわいらしいキッソオのブランドイメージが出来上がっていったと話します。

※工場併設のショップには指輪やバングルなどアクセサリーが並び、まるで宝探しのよう

吉川社長「アクセサリーで大切にしている 3つのコンセプトあります。

ときめきと感動、みんなが満足するギフト、ワクワクするエンターテイメント。

これに沿って、企画、開発、製造、物流、 販促、販売のタスクを細分化して、年間スケジュール立てながら、 商品づくりをやっています。」

学生「アクセサリーに挑戦したのは、鯖江眼鏡をもっと発信していきたいという思いもあったんですか?」

吉川社長「その通りです。僕ら材料屋は、鯖江眼鏡の産地が伸びれば儲かります。キッソオがアクセサリーをやることによって鯖江眼鏡の技術と材料でつくったものですよって宣伝すれば、鯖江眼鏡を有名になる。そしたら産地としてもっと強くなれればいいなって思っています。」

吉川社長が語るキッソオの歴史、材料屋としての誇りと挑戦に学生たちも心が熱くなりました。

心躍るキッソオを後にし、次に向かったのは小泉町にある株式会社佐々木セルロイド工業所

日本で数社しかないプラスチック製眼鏡の一貫生産(デザイン、組み立て、仕上げ、販売)をされている会社で、社員の濱井さんが対応くださいました。

濱井「今日は3社目の眼鏡屋とのことなので、もう増永五左衛門という方はご存じですよね。増永さんの功績によって1905年に 眼鏡の職人になりたい人たちが集まって増永一期生っていうのが結成されるんですが、 その中に当社の創業者にあたる佐々木末吉が一期生のメンバーとしていました。その頃は、金属のフレームしか作っていませんでしたが、1910年ごろに日本に工業製品として輸入されたセルロイドというプラスチックをフレームに転用できないかと佐々木末吉は独自で研究をしていました。増永さんからの後押しもあり、本格的にセルロイドの眼鏡づくりがスタートしました。」

濱井「まずはプロトタイプです。注文を頂いたらすぐに量産ではなく、図面をもとに試作をつくり、デザインの微修正や機能性の検証を行います。大きすぎないか、重くないかなどは図面だけではわからないことも多くあるので、ここで製品としてちゃんとカタチになるようにクライアントさんが納得するまで確認し、量産していきます。」

工場に併設されている直営店は今年の2月にオープンしたばかりで、オリジナルブランドの眼鏡や雑貨にも触れることができます。

学生「入社したら最初にどんな作業から覚えるんですか?」

濱井「当社は、中途採用のみですが未経験者の方もいるので、まずは眼鏡づくりを知ってもらうためにも一通り経験してもらいます。」

佐々木セルロイドのHPには、「10年後に独立する前提の独立コース」と「中途採用」の2種類があります。独立コースがある会社、珍しくておもしろい…!!

その他にも男女比率や年間売上高推移などをオープンに記載されているので、気になる人は是非チェックしてみてください!

そして最後は、西袋町にある創業231年になる老舗漆器屋、株式会社漆琳堂

越前漆器の産地である河和田に向かう途中、「漆器」という看板が目に入ってきます。

石井さん「当社では、料亭とかお寿司屋とか、ハイエンドな飲食店で使用される漆器の上塗りを主にしています。直接オーダーをいただいて、 絵をつけるか、色を決めるかどうかをお聞きして、漆器が完成するまでの工程管理も行っています。」

石井さん「最近では、業務用漆器だけでなく、家庭でも使いやすい自社ブランド立ち上げて漆器の口当たりの良さや落としても割れにくいという特徴を広めていっています。

初めての自社ブランド『お椀や うちだ』という商品は、透けた生漆を塗ってはふき取るという工程を繰り返し、美しい木目を生かした拭き漆という技法や外側と内側で技法を変えて一度に2つの技法の違いと良さを楽しめる漆器をデザインしています。

他にも、青や白が美しい「aisomo cosomo」という商品やオレンジやピンクなどポップで現代の食卓にも合うような色漆を使った商品もありますよ。」

学生「この漆器のキャプションに、食洗器対応って書いているですが、本当の漆なんですか?」

石井さん「『RIN&CO.』というシリーズは、弊社の社長が福井大学 や技術研究所に通って、食洗器対応の漆塗りを研究して、『越前硬漆』という技法を開発しました。お客様からも『食洗器使えますか?』という質問が多く、家庭で漆器を使うにはそこがハードルになっていると感じていたので。

塗料に何か混ぜているわけでも、コーティング剤を付けているわけでなくて、漆の特徴を最大限に引き出して漆のみで食洗器対応ができるようにしています。

私たちが狙っていたような若い世代の人たちにも、こう、手に取りやすい漆器になってるのかなって思います。」

RIN&CO.は、北陸のものづくりをテーマにして、曇りがちな空の色や夕日や越前ガニなどをイメージしたカラーリングとなっているそう。

石井さん「最近は、女性の木地職人が入社してくれて、色々なカタチを1つからでも生産できるような準一貫生産体制を目指しています。この産地にも木地職人はたくさんいますが、職人さんの高齢化も進んでいます。そんな中で大学で漆芸を学んだ若者が就職したいと連絡してくれることも少なくありません。」

当社の職人は大学で漆芸を勉強している人多いので、その専門知識を生かして、従来の艶っぽい質感だけでなく、ざらざらとした質感だったり、和紙を貼って漆を塗ってみたり、新しい漆の表現を探しています。」

店舗の什器や鉄に塗ってみたいと相談に来られるお客さんもいらっしゃるんだとか。

いくつもの板状のサンプルには、裏に材料や塗り方などが細かく書かれており、試行錯誤の跡が見えます。

今回の育職住ツアーでは眼鏡と漆器の企業にお伺いさせていただき、創業の歴史から新しいものづくりへの挑戦、あまり触れることのできないものづくりの現場を知ることができました。

この会社に入ってみたらどんな自分がいるのだろうか?
自分の学んでいることがどんなカタチで社会に生かすことができるのだろうか?

じっくりとお話をお聞きする中で、「鯖江で働く」というイメージが湧いたのではないでしょうか!

お世話になった企業のみなさま、ありがとうございました!

SpecialThanks

・プラスジャック株式会社:眼鏡の製造・販売、セルロイドの雑貨の製造・販売

・株式会社キッソオ:眼鏡の製造・販売、セルロイドの雑貨の製造・販売

・株式会社ササキセルロイド工業所:眼鏡の製造・販売

・株式会社漆琳堂:漆器の製造・販売

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です