土直漆器 | ベテランと若手がつくる伝統と革新。現代のニーズに応えたものづくりの現場。
鯖江市河和田地区には、漆器関係の会社や工房がたくさんあります。実は、それが産地たる所以なのです。「越前漆器」も、そうした事業者がネットワークされることで、分業制として成り立っており、地域全体で商品を生産している。そんな中この土直漆器は、木地師以外の各工程の専門職人を抱える、河和田でも数少ない工房なのです。
現在職人1名と、2020年春に工房の隣にオープンする直営店の店長を1名募集中。扱う分野は異なりますが、どちらも通常の漆器生産や企画提案なども行うことができる仕事です。
(職人は技術的な下積みが重要なので今回は35歳以下の方に限っての募集となります)
土直漆器は越前漆器の産地を代表する会社として、仕事に求められるレベルが高く厳しい部分はありますが、自社工房で熟練した職人さんたちによる指導環境が整っています。高いレベルで仕事がしたい!という方はぜひ最後まで読んでみてください。
職人に憧れて関東から鯖江へ。越前漆器の持つ柔軟さが、選んだ理由。
まず、お話を伺ったのは、土直漆器で働き始めて7年目の前田智子(まえだ・ともこ)さん。千葉県佐倉市のご出身で、現在は鯖江市河和田地区にお住まいです。大学を卒業後2年間働いた後、京都伝統工芸大学校で漆を初めて学ばれ、その後、輪島にある石川県立輪島漆芸技術研修所で3年間の研修を経て、土直漆器に来られました。
「今、会社の中では中堅くらいになるのですが、下地から上塗りまで『塗り』に関わる仕事を全般的にやっています。自分でいうのもアレですが、漆の学校を出て土直漆器に入ったのは自分が始めてだったので、最初から「これ塗れる?」という風に色々やらせてもらえました。
もちろん、最初から漆を触ったことのある方ばかりではありませんし、この会社で初めて漆を触ったという方も、今では会社の中心におられます。」
学生の頃は、何かをやりたいわけではなかったけれど、ずっと職人への憧れがあったという前田さん。大学生のときにお茶を習い始め、茶道具に触れる中で漆器を作る職人は良いなあと感じたそうです。前職につきながら、20代なら失敗しても良いかと一念発起し、これまで働いてきたお金を投じて、憧れの漆工を学びぶために学校に入ったとのこと。
「学校では伝統的な漆器から入りましたが、漆器の現代的なスタイルにも魅力を感じていました。京都だけでなく輪島の研修所も伝統的なことをやるのですが、たまたま河和田に遊びにきたときに職人さんが集まって『山車』を作っているのをじーーっと見ていたら、「やってみるか?」と言われて。なんて気さくな産地なんだ……とオープンさを感じたことが印象に残っていました。そのあと、将来河和田で働けたら良いなぁと思って求人を見ていくうちに土直漆器に辿り着き「新しいこともたくさんやっていて面白そう!」と思ったので、「興味があるので一度会ってください」と手紙を書きました。」
輪島や加賀や京都など、他にも漆器産地はたくさんある中で越前を選んだ前田さん。その理由は産地全体の柔軟なイメージだったと言います。
「実は、勉強していた頃からちょこちょこ越前漆器の話は聞いてました(笑) 京都の先生が『京都で木地を作るよりもお手頃価格で無理難題に対応してくれる』と言っていて、柔軟な対応をする産地なんだなぁというイメージを持っていましたが、勤めてからは、やっぱり無理難題が会社に来て……、こんなのも塗るんだと驚きました(笑) しかも、塗り物の種類が多い上にスピードが早いんです。仕事は大変ですが、技術を自分なりに工夫してやっていくのが好きなので、楽しいです。仕事の段取りも全部自分に任されてやっていくので、1日の中で工程が上手くハマったときは嬉しいですね。
仕事の中で、こう工夫したらいいんじゃない? と、他の職人さんに教わることもたくさんありますし、逆に、私から先輩の職人さんに提案しても聞き入れてくださいます。これは輪島では考えられないことなので、土直漆器や越前の良さだと感じています。」
一軒家に住みたくて。田舎の自然は厳しいこともあるけれど、周りに人がいればそれも楽しみに。
鯖江に来てしばらくは鯖江駅の近くにお住まいだった前田さん。なぜ河和田に引っ越して来られたのでしょうか。
「今は上河内町という河和田地区の中でも一番東側にある町に住んでいます。一軒家に住みたくて、土直漆器会長のツテでお借りすることができました。雪がたくさん降る地域なので雪かきが大変ですが、無心で作業しています。
ご近所さんも良い方で、あんまり懐に入り過ぎないで接して下さるので、暮らしやすいです。ここに移り住んで来るときに決めていたのが、地域の清掃関係は出るということ。『敵を作らない』というのが生きる術だと思っています(笑)」
最近は、越前漆器に関わりたくて新しく入ってくる方の9割が女性なのだとか。漆器だけでなく和紙や刃物など、伝統工芸に携わる若手の交流会なども開催されており、地域内での情報交換も積極的に行われているそうです。
最後に、職人になってみたい方にメッセージをいただきました。
「ほんと好きじゃないとこの仕事はできないので、漆を好きになってもらいたいですね。好きになるには、まずは使ってもらうことが一番です。私の話で言うと、ずっと金属のスプーンを使っていましたが、漆のスプーンを使うと口当たりが全然違って感動しました。あと、現代の生活スタイルに合わせて提案をし続けていく情熱と力が必要です。「できないとか、仕方ない」で終わらせず、粘り強くやっていくことが大切ですね。」
仕事に活気とやりがいを。ベテランも若手も活躍できる職場環境づくり。
「うちは小さい会社なんですが、新しい職人が増えて社内が徐々に若返ってきていて、今すごく活気があるんです。みんな家族のように付き合っていますし、定期的な懇親会も開催していることもあり、とても仲が良いですね。」
確かに取材中、工房内に若い職人さんが多いことに驚きました。社員数15名の会社の中に、20~30代の方が6名もいらっしゃるのだとか。職人の高齢化や後継者不足が深刻化して存続が危ぶまれる産地もあるにも関わらず、ここには若手がたくさん集まって来ています。
「土直漆器は、自社工房を持っていることが一番の強みです。職人の意思疎通が図れて、なおかつ均質に上質な商品を作ることができる。熟練したスタッフのもと短納期にも対応ができます。すごい量の案件が来ても、他社に出来なくてもうちだったら出来るという場合があって、とくに木製漆塗りの商品であれば対応できることが多いですね。若手をしっかりと雇用できるのも、自社工房で仕事を任せられるという教育環境が整っているからです。」
移住者の人は頑張っていると土田さん。スタッフのうち4人が県外出身者で、仕事としては良し悪しがあるけれど、工房内に新しい風を吹かせてもらっているので嬉しいと話します。職人さんにはどんどん新商品の提案をしてきてほしいと話しているそうで、社内の環境も自由な空気を残しているのだとか。
「前田はどんどん提案してきますが、みんなもっともっと出してきてほしいと思っています(笑) 僕も40代に入ってしまったので、20-30代の感覚からの提案が出てくると嬉しいです。そういう提案は、例え商品化しなくてもいつか活きてくるでしょう。
塗れないものはほぼ無い。産地のノウハウでつくる商品を。
土田さんは、土直漆器を「漆器を作る」会社ではなく、「漆を塗るということに特化した」メーカーだと定義します。伝統技術は継承しつつ、今の時代を反映した商品づくりをしていきたいのだとか。
「漆離れが深刻な中、『URUSHI MOBILE TUMBLR』のように漆を持ち歩いて良さを楽しんでいただくことが普及として重要だと考えています。もともとこのタンブラーは、海外で漆の器を売るのは難しいという話をしていたときに、コーヒー文化は世界中どこにでもあるのでやってみてはどうか、というアイデアからスタートしました。
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科も手伝ってくれて、クラウドファンディングも利用して知名度も上がり、当初の目論見通り売れ始めました。ステンレスに直接は塗ると剥がれてくるので、下地に科学塗装をするのですが、それは越前漆器でプラスチックに使っている技術を使っています。産地のノウハウで作っているというのが自慢ですね。」
こんなものに塗れないのか? という問い合わせが増えてきているそうで、タンブラーのようなステンレスに塗っていると、そんなモノにも塗れるのかと、驚かれているのだとか。
「自社だけでなく、産地内で職人にこれに塗れますか? と聞くと、塗れないと言われたことがほぼ無いんです。どうやら職人さんは引き受けてからどうしよう……と考えてるらしいですが(笑)」
土田さんは経営の傍ら、職人としてもお仕事をされています。職人の気持ちがわかるからこそ厳しいときもありますが、産地を背負っていく覚悟とものづくりへの誠実な姿勢を感じます。
「自社企画した商品が売れるのが一番嬉しいんです。うちの職人たちが作ったものを展示会に持って行ったときには、一生懸命売ってあげたいと思うし、受注を取ってたくさん作れるようにしてあげたい。自信が付いて新しい商品を作るモチベーションにもなるので、自社や産地内の職人さんには、あなたが手がけた商品が並んでいるところを見て来て……といつも言っていて、それが経営者であり職人でもある私の仕事だと思っています。どんな人の手に渡っているかは、職人にとってすごく大切なんです。
最後に、土田さんにとって「伝統」とは何でしょうと質問をしました。
「技術を継承しながらライフスタイルに合った商品を作るということですね。うちは伝統という言葉を、伝承というよりも『革新』へとレベルアップしていく視点で見ています。技術を使って、ライフスタイルに合わせて、もっと丈夫で手軽にするにはどうしたら良いかと常々考えています。
この商品を作らなければダメだという考えはあまり持っていないので、今喜んでいただける商品を作っていきたいです。その背景には、越前漆器には1500年という歴史があります。ここまで続いてきたことは本当にすごいことだし、自分たちが無くす訳もはいかないと思っています。」
職人一人ひとりを大切にしながら産地を引っ張っていく社長、自分で考え前のめりに成長していく職人たち。仕事に取り組む上での厳しさはありますが、ものづくりが好きな人ならば、きっと素晴らしい環境のはず。
漆器の仕事をはじめたいと思っている方は、ぜひここで一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。
来春オープンの直営店もぜひ足をお運びください!
【連絡先】
株式会社土直漆器(webページはこちらから)
(本社)〒916-1223 福井県鯖江市片山町6-1-2
(工場)〒916-1221 福井県鯖江市西袋町214
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