【TSUGI-vol:2/5】デザインの力を使って、創造的な産地を目指す。

サークル活動から法人へ

ーーTSUGIを法人化したきっかけは何だったのですか?

TSUGIはサークル活動として軌道に乗りはじめており、次の展開を考えていましたが、メンバーが皆本職を持って活躍していたことから、これ以上時間をつぎ込むことが難しい状況にありました。僕も市役所の仕事は面白かったし、やりがいもありましたが、独立志向を持っていたので、今後について悩んだ結果、個人事務所としてやっていこうと計画を進めていた。しかしあるとき、本気でやっていくのなら法人にした方が良いと、お世話になった方に助言をいただいたことから、合同会社にすることを選びました。


(出典:カリグラシマガジン THE BORROWERS https://karigurashi.net/ours/tsugi-1/

アートキャンプで一緒に活動していた同期のちいこ(デザイナーの寺田千夏さん)と、2人で立ち上げましたが、彼女が鯖江に来てくれたのはある意味偶然です。年末に飲んでいたときに、ベロベロになりながら「一緒にやらないか」と口説いていたのですが、僕はそんな話をしたことを忘れていました。でも、ちいこは深く捉えてくれていて、あるとき、一緒にやると決断してくれました。

ーー寺田さんは大学時代の同級生ですね。寺田さんの記事はこちらから

資本金は今も昔も30万円。役所時代の3年間はビジネスなんて一つもやってなかったので、ビジネス感覚は皆無。100万円だけ貯めてスタートしたのですが、会社を作って20日で資金がショートしました(笑)

甘かったと実感し、そこから焦ってめちゃくちゃ働きました。

(出典:カリグラシマガジン THE BORROWERS https://karigurashi.net/ours/tsugi-1/

創業時の苦労と負けん気

ーーTSUGI創業時のお話を聞かせてください。

河和田の方とかなりぶつかりました。
創業前の僕は、地域からすると役所勤務で使い勝手の良いイエスマンの良い子ちゃん。アホやけど、悪い奴じゃないから可愛がってやらなあかんという空気感があったと思います。そんな僕が起業して、「産地は変わらないとダメだ」とワーワー騒いでいる。

ーー危機感を感じておられたのですね。

あるとき近所の職人さんに「お前、最近自分でやっているらしいけど、あんまりやったら周りに干されるぞ」と忠告されました。僕が地域の飲み会に行かなくなったことと、役所へ入ったことがその火種だったのですが、他にもいろいろとあったのかも知れません。当時の河和田は、飲み会していても悪口、噂話、自虐ばかりで、まちの閉塞感や田舎感が滲み出ていて全然面白くなかったんです。

一方的に言われたことに堪らなくなって、「だからこの町はダメなんですよ!建設的な意見もなく、文句を言うだけじゃないですか。それが嫌だから集まりに行かないんです!」とキレ返しました。その後、河和田の人から結構嫌われたな…と感じて辛かった時期が続きました。

今は仲が良い井上徳木工さんからも、「俺はあのときのお前が大嫌いだった。何も分かっていないくせに、ものづくりを分かった気になって偉そうなこと言って…。」と言われました。そういう風に地域からは見えていたんですね。

ーー産地の未来を考えて動いているのに、その反応は辛いですね。

その経験から、僕らデザイナーがどれだけ頑張っても、まちのやる気や熱量が無いとダメだと理解することができました。そこから、「創造的な産地」をつくることの重要性に気づき、動き出しました。

創造的な産地をつくる

ーー創造的な産地とはどのようなものでしょうか。

創造的な産地づくりとは、「デザインの視点から、地域の原石・資源を見つけ、磨き、価値化することで、地域中外に気づきを生み出すこと。時代の変化に向きあい、行動できる人を増やすこと。」と定義しています。

具体的には、
・支える
・作る
・売る
・醸す
という4つの軸をTSUGIはもっています。

「支える」は、デザインを通じた産地の下支えです。
現在のTSUGIは、70%の売り上げがここからです。ブランディングを含めたロゴ、パッケージ、サイン、web制作などのデザインワークになります。詳しくはTSUGIのwebページにまとめてあるので、ご覧いただければと思います。

「作る」は、自社商品を作ることです。
デザイン事務所をこの町で立ち上げたときに、みんなデザイナーが嫌いでした。地域でデザイナーが嫌われているのは、過去に外部デザイナーが適当なものを作って売れなかった事例が多かったから。なのでこの町でデザインをするには、流通まで自社でやることがマストだなと。そう考えて作ったのがアクセサリーブランド『sur』です。

2014年の森道市場で初めて販売して、3日で10万円くらい売れて、当時は震えるほどすごいな…と思いました。人気が出そうで、卸の話もあって。バイヤーから「掛け率は?」と聞かれて、掛け率という言葉を知らなくて、「それなんですか?」と返事をして心配されました。売れたのは単に安かったから。作り方も最初はヤバすぎました。値段設定など、失敗をたくさんした。でも、すごく勉強になりました。

「売る」は、SAVA!STOREなどのポップアップ。コロナ前はよく開催していました。
これはある種僕らのアイデンティティで、自分たちがデザインした商品の流通までをデザインすることができます。一番川下で、エンドユーザーとの関係ができ、声を聞くことができるので、ローカルでやっているデザイナーには大切なことだと考えています。

他にwebストアも丁寧に、下手な販売員さんよりもわかりやすくすることを心がけています。工芸はちゃんと説明しないと、置いているだけでは売れません。まるで販売員さんがいるかのように、webで動画を使ったり、熱を込めています。

ーー確かに工芸品は、画像だけでは購買の判断が難しいですね。

作家さんの中には「工芸品をネットで売るなんて…」と頑な方もいらっしゃいます。でも僕たちは、「良い販売店とは何度もリピート発注してくれる場所」と捉え、「売ること=産地が続くこと」と考え、ある意味開き直っています。

「醸す」とは、産地の熱量を作ることです。
RENEWという産業観光の取り組みを初めて7年が経ちました。
(RENEWについては次回の記事で詳しく取り上げます)

その中で大きかったことは、ショップが29店舗出来たこと。観光の無い町に観光スポットができた。その流れを絶対に次に繋げたいと思いスタートしたのが、福井のものづくりとデザインを体感できる小さな複合施設「TOURISTORE」です。

フランスの小説家であるマルセル·プルーストの「本当の発見の旅とは、新しい景色を探すことではない。新しい目を持つことなのだ」という言葉を大切な考え方として持っていて、RENEWでやっていることはまさにこれです。解像度の高い買い物のプラットホームを作っている。

ーー買い物という行為に新しい視点を持たせたのですね。

今まで漆器について考えたことがない人が、河和田で漆器を買って使うたびに鯖江を思い出すだとか、職人との会話を思い出すとか、ある種学びの旅となります。エデュケーションとエクスペリエンスで、EtoCという造語を使って表現しています。

これまで話した4つの軸を基準としながら、産地内企業からのデザイン依頼をブランディングして返す。次にTSUGIの自社ブランド商品を産地の企業に作ってもらう。そして産地企業の商品と自社ブランドをSAVASTOREで売る。

さらにRENEWを通してファクトリーショップを増やし、年に1度のイベントではなく恒常化するためにTOURISTOREを作って、訪問者を増やす。このサイクルを回し続けることで、創造的な産地を作り上げていけるんじゃないかと思っています。

やはり全方位的に最強なのは、現地に来てもらうことですね。

※次回に続きます。

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