【TSUGI-vol:5/5】観光から関係の生態系をつくる。

インタウンデザイナーという働き方

創業からがむしゃらに頑張って来た結果、ローカルデザイナーというジャンルでは注目される存在になったと自覚しています。受信者の少ないローカルのデザイナーこそ、熱量を込めて発信をしていかないといけないと考え、2年前くらいから「インタウンデザイナー」という言葉を提唱しています。

ーーそれはどういった意味なのでしょうか。

言葉の定義は「広義のデザイン視点を持って、その土地の資源を生かした最適な事業を行うことで、地域のあるべき姿を導く人のこと」。都市ではなく、地方で働くデザイナーのことです。そういう人を増やすことが、ローカルから国力を上げることにもつながっていくと考えているため、積極的に発信するようにしています。

ーーデザイン事務所は都市部に多いイメージがあります。

デザイン事務所の6割は東京・大阪・名古屋に集中しています。福井には約40件のデザイン事務所が登録されていますが、実際に稼働しているのは10〜15事務所くらいだと思います。色々なデザインの形がありますが、本当の意味でちゃんとデザインをしているところは少ないです。

都市部に集中していることから、「デザインの需要は消費地にある」ということがわかりますが、一方で生産地だからこそできるデザインがあると実感しています。

TSUGIはたまたまものづくりの産地である鯖江でデザインをしていることから、そこに特化していると「流通」が大切な要素になってきました。産地特化だからこそ、その地域の状況に則した内容の業務が必要になってくるんです。他の地域だったらまた別の重要な要素が出てくるはずです。

ーーTSUGIから独立した方々が各地のインタウンデザイナーになっていくのかもしれませんね。

少し前に、元メンバーが鳥取で独立しました。TSUGIと同じことをやるのではなく、インタウンデザインの概念を各地域で使って、鳥取らしいデザイナーになってほしいと思っています。

最近、産地特化型モデルを牽引するものとしての責任を持つ時期が来たなと感じていて、一生をかけてインタウンデザインの使命を考えていかないといけないと最近思っています。

※3月20日に新山さんの編著書が出版されます。全国のローカルデザイナーの働き方・生き方が書かれた本です。
https://www.amazon.co.jp/dp/4761528109/

ーー大きな役割を背負っているのですね。

 

ライフステージの変化と悩み

客観的にはTSUGIはローカルプレイヤーの成功事例という見え方をしていると思いますが、徐々にメンバーのライフステージも変わり、悩みも出てきました。

例えばPARK(河和田地区にある、元眼鏡工場と社員寮をリノベーションした複合施設)は、スタート当初は何者でもない人たちが集まって作った施設ですが、みんな忙しくなってきたり価値観が変わったりして、最初のグルーヴ感みたいなものは無くなってしまいました。あの頃に戻れるかと言われると戻れないので、今は自分たちで無理して運営するのでなく、若い移住者たちに役割を託すことで、違う形で運営できるようになりました。

ーー若さから来る勢いもあったのでしょうね。

また、ものづくりから観光、飲食店や宿など、仕事の領域が広がり求められるレベルが上がって行く中で、足元を見失っていないかと、ふと我に返ることがあります。ずっと立ち上げ当初のような楽しいお祭り感覚ではいられないし、誰かがこの道の「ど真ん中」をしないといけないし、政治的な振る舞いも必要になってくる。誰がやる?と周りを見渡したとき、自分の世代だと僕がやらないといけないなと実感することが、嬉しくもあり寂しくもあります。

TSUGIの活躍を見た周りの人から、「刺激的な仕事がもっとたくさんある東京に移転するんじゃない?」と言われることがたまにあります。そんなことはありえませんが、都市だからこそできることもあるだろうと葛藤している部分も少しはあります消費地には消費地の役割があるので。福井にはプレイヤーが少ないこともあり色々な面白い仕事に携わらせてもらう機会も多く、人からしたら贅沢な悩みだと思われますが、悩みを相談できる方もなかなかおらず…。

最終的には自分が決めることだという割り切りもありますが、孤独感を感じることもありますね。

ものづくりから観光へ

6~7年間、ずっとものづくりをやってきましたが、これからの10年は「観光」を強化しなければならないと考えています。TSUGIの動きとRENEWはセットで考えているのですが、丹南エリアの通年型産業観光、工房ショップを巡る学びの旅、そして宿など、観光を起点に広がる産地の生態系を作りたいんです。

ーー産地の生態系とはどのようなものでしょうか。

河和田アートキャンプがきっかけで僕らが生まれ、成長してTSUGIができて、森くん(元RENEW事務局長)みたいな別文脈の若者もどんどん出てきている。観光を起点とした短期滞在をきっかけに、ものづくり文脈ではない人がどんどんこのまちに入って来る。移住と観光の差が無くなり、有機的な変化が生まれる、そういう生態系が理想です。また、外の人と中の人がつながり、互いに学び合うことで地域に新しい価値が生まれ、その営みそのものが持続可能な地域につながると思っています。

観光をやっていくにあたり、いま特に力を入れているのが「Craft Invitation」です。これは福井のまちや人の魅力を紹介する私設観光案内所で、通年型観光を強化する起爆剤として運営しています。TSUGIのスタッフであるやっさん(安田昌平さん)がコンシェルジュになっていて、旅行業登録も行い、地元の観光会社など色々な旅行会社と連携して、工房と観光客を結ぶコーディネーターみたいなことをやっています。わかりやすい観光案内もするし、県外のデザイナーとこのまちの職人のマッチングも一部やっています。

ーーただの観光ではないのですね。

まだまだこれからなこととしては、地域の観光体験メニューをきちんと作って、宿や交通といったインフラを整備しないといけません。他にも空き家が足りないことや、移住して事業をやりたい人の支援なども必要です。福利厚生として社宅をつくらないとなぁ…と考えていたりもします。

前後数年間のロードマップとして、2019年にTOURISTOREがオープンし、そのタイミングで店舗改装の補助金が出たこともありファクトリーショップが増えました。そして2020~2021年は産地マップ、webを作りました。

これからは、ツアーコンテンツの情報の整理を中心に、東京での大規模ポップアップなどを実施していきます。来年には観光客を現在の2倍にしたいと思っていて、今年仕込んだツアー企画を順番にスタートさせていきます。

ーー一気に広がる様子が想像できます。

そして2025年までには、増えた観光客を受け入れる宿泊施設をオープンさせ、そしてこのまちらしい食を提供する。というようなイメージを考えています。観光と移住が混ざり合ってくるから、結果的にまちの担い手が増えるということを狙っていけたら。

ただ、旅行業は薄利多売なんです。大型バスでこられても、工房にそんな大人数入ることはできません。めちゃくちゃ正しいことをやっているとは思っているのですが、どうやって稼ぐん?と不安視している部分も。

解決しなければならないことはたくさんありますが、僕らは「新しい目を持つ旅」を提供したい。過度な期待はしていませんが、2024年には北陸新幹線も敦賀まで延伸するので、活かせるものは活かしていきます。

まだまだ道半ばですが、創造的な産地に変化していく過程を楽しんでいただければと思います。

※全5回終了。

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