山直織物 | 歴史と伝統が息づく工場から、日本の伝統技術を未来へ繋ぐ仕事。

事務所に入り、一息つく間もなく「お菓子たべね、たべね。お茶かコーヒーどっちがいい?」と、パソコンやカメラの準備をする私たちに、久々に遊びに来た親戚の子どものように優しくお菓子を勧めて下さる山田社長。柔らかいお人柄で一気に現場がほんわりとアットホームな雰囲気になりました。

山直織物の代表である山田清実(やまだ・きよみ)さんは鯖江市生まれの69歳。スタッフの方もベテランばかりの熟練した職場です。山田さんも現場にしっかりと入っておられて多忙なため、今回は短時間での取材となりました。

 

ベテランスタッフで高品質な製品をつくる。新しいものを生み出す日々。

「山直織物では、産地の先輩方が長い時間をかけて培ってきた「*羽二重織物」の技術を継承して、様々な織物製品を作っています。絹織物は現代日本の礎を築いた重要な輸出品で、かつては日本各地に産地がありましたが、着物を着る人が減ったこともあり、いまでは数えるほど。特に服地を作る和装の機屋は、一大産地である福井であっても本当に僅かしか残っていません。日本から技術が無くなろうとしている中、我々は先人たちの想いを後世に伝えていけたらとの想いから、仕事をしています。」

*羽二重(はぶたえ)とは、 無撚の生糸を使用した日本独特の平織りの絹織物。織機の筬の一羽に二重になる経糸を通すことからこの名がある。白く風合いがとてもよいことから、和服の裏地として最高級であり、洋装にも用いられる。『絹のよさは羽二重に始まり羽二重に終わる』といわれる。

「世の中とともに産地の形も変わっていきますが、鯖江にとって、繊維は明治以降の伝統産業になります。うちは明治29年の創業ですが、当時は町中にたくさん機屋さんがあって、一軒に一台の手機があるという形態だったそうです。今でも、西山公園には古い石碑が残っていますね。

織物の品質についての呼び方も違いました。今は出来の良いものからA反・B反・C反と呼びますが、当時は松・竹・梅で表現したんです。「松」をたくさん織ってくれてありがとうねと、表彰を受けたことを今でも覚えています。」

明治時代から続き、その伝統を今に受け継ぐ山直織物。柔らかく、上品な光沢のある絹織物「羽二重」をメインに、その技術を使ってシャツの服地やスカーフ、音響資材などを作っておられます。

特徴は「後練り」と呼ばれる製法。生糸には、「セリシン」と呼ばれる接着剤のようなものが付いており、それを織り上げた後で除去するのが後練りです。織機で高密度に織ったあと、セリシンを除去することで、硬くこわばっていた生地が一気に解き放たれ、柔らかく、肌触りのよい風合いを持つ羽二重へと生まれ変わります。

「織りにも技術が必要です。緯糸をあえて水に濡らすことで織物の密度が増すのですが、これを『濡れヨコ』といって、福井の羽二重のキモになります。最近では、ポリエステルとの交織や、ダウンジャケットの素材として裏にアクリル樹脂を塗った織物など、カジュアル用途にも使える織物も作っています。」

羽二重の技術を応用し、様々な製品を作り出していく山田さん。高い技術力をベースに、「日本でしか作れない生地」を大切にしておられます。

「うちはスタッフが高齢化していて規模は小さいけど、そのぶん仕事の質が高いです。何年か前に日本の有人実験施設『きぼう』のある国際宇宙ステーションでお茶会が開催された際にうちの生地が採用されたり、写真のように2020年には海外のスーパーブランドにも採用されたりしています。」

 

年齢的にいつまでも仕事を続けられないけれど、産地のために経験を活かしたい。

「自分ももう良い年齢になってきたし、これから何十年も仕事を続けるのは難しいと感じています。しかしながら、健康を維持できたら、この業務にできる限り携わっていきたいと思っています。これまでずっと現場にいて生地設計などの経験が人一倍あるので、求められるのなら産地のために活かしたいですね。たまに近隣小学校や服飾学校に呼ばれて地元の産業を紹介する授業で講師をするのですが、若い人たちにもこの産地の歴史や繊維の面白さを積極的に伝えていこうと思っています。」

学校で授業をするための資料を私たちも見せていただきましたが、かなりのボリュームでまとまっていました。

これまで、いろいろなサンプルを作って、仕事にはたくさん投資をしてきたけど、成功したものもあるし、失敗したこともたくさんある。若い人たちにもたくさん挑戦してほしいと思っています。僕はこれからも気ままにやっていこうと思っているよ。」

求人はしておられず、今のスタッフでほそぼそと続けていきたいと話す山田さんですが、持ち前のフットワークでこれからもたくさんの方に繊維の魅力を伝えていかれることと思います。

 

 

【連絡先】
山直織物株式会社
0778-51-0413
yamanao@gaea.ocn.ne.jp

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