【漆琳堂-vol:5/5】産地の中で際立つメーカーを目指して。

歴史のある工房の技術と伝統を守りながらも、時代や生活スタイルに沿ったブランドづくりで現代に合った越前漆器の姿を作り出してきた内田さん。越前漆器の商品としての形はもちろん、技術の継承もしっかりと現代に合う姿を見極め着実に若手の職人さんの育成をすすめておられています。

漆琳堂の職人は、私・父・嶋田・高橋の4人。そして来春には2人増えます。
職人には、人それぞれ良い面と悪い面があります。父は塗るのがとても早いです。それは、納期遵守の業務用漆器を何十年も作ってきたからです。

ーー入社された職人さんたちはどうですか?

僕は父のやり方も分かりますし、今まで作ってきた自社ブランドの精度の基準もあります。嶋田たちは、自社ブランドの精度で作ってきたので、塗りのスピードや塗ってきた量はまだまだですが、丁寧に良い商品を作りたいという思いは強いです。そういうところが本人の持つ良さなので、「はやく塗れ」と言うよりは、「この数を丁寧に塗れて良かったな」と言うようにしています。


写真:TsutomuOgino(TOMART:PhotoWorks)

ーー業務用漆器を作ることから、自社ブランドを作ることに移り変わっているのですね。

今まで作ってきた業務用漆器というのは、塗賃数百円で量と納期に迫られていましたが、今力を入れている自社ブランドは、一日100個の塗りを予定していたけど80個しか塗れませんでしたとなっても、誰も損をしない構造になっているんです。ちゃんと良い商品を作ろうじゃないかという流れに変わってきています。

ーー若手職人さんに教えるときにこだわっていることはありますか?

僕は、自分が入社したときにはあらゆる面で塗る環境が整っていたので、入社1日目から漆を塗っていました。失敗をして、全部研いで塗り直したこともありますし、色んな失敗をしてきたことで、伝えられることがあるなと思っています。学生時代は体育の教員を目指していたので、指導計画を立てた経験は役立っていますね(笑)

昔は「職人の背中を見て、自分で見て覚えろ」と言われていましたが、私は「動画を撮って、ちゃんと観察する」ようにと言っています。動画では刷毛の動きをじっくり追えますし、何度でも見られます。動画を何度も見てイメージトレーニングをして、実際に工房で刷毛の感じや塗膜の厚さなどを教える感じです。

嶋田から高橋に教えるときは、僕が教えたのとは違うニュアンスの伝え方に変わっているのも面白いなと思っています。塗るときの漆の柔らかさを教えるときに、

「ミルクの柔らかさだと塗りにくいけど、コーンポタージュのようなトロっとした感じだと塗りやすくて、スムージーでは塗りにくい。」

という嶋田オリジナルの表現をしていて、今どきっぽくていいなと思って見ています(笑)

 

後継者の育成は、タマゴが先か、ニワトリが先か。

 

内田さんは近年増えてきた移住者を「風の人」と呼び、産まれてから高校生まで河和田で育った自身のことを「土の人」と例えます。

一時期、地元のベテランの職人さんを入れることを考えたことがありました。
でも、父親が増えるような感じですし、今後自分が代表になるのに目上の人がいるのは...と思ったり。生産力は格段と上がるとは思いますが、50代の方が来てもあと数年しかありません。技術は無くても、時間をかけて若い人を育てていくほうが良いと思ったんです。

一度スタッフを入れると固定費がかかるので、経営を意識するようになりました。それぞれのブランドの売り上げと、業務用漆器の売り上げ、修理や金継ぎなど、それぞれを細かく数値化していくようにしています。

私がブランドを作り始めたとき、父は「業務用をもっと頑張らないといけない」と言っていました。昔はお膳の上に器と料理が並んでいるというのが正式な形でしたが、今は多くのホテルの料理はビュッフェ形式になっていて、そっちの方が豪華に感じる人もいて、主流になってきました。

業務用のお椀や単品の商品が売りにくくなり、市場が小さくなってきたと思います。そこにどれだけ頑張って、業務用の新商品を作っていっても難しいんですよね。越前漆器は業務用漆器生産量の8割を占めていますが、残りの2割は他産地が高級な漆器を作っていて、参入しにくいというのもあるんですよね。

ーー漆琳堂はこれからどのような方向へ進んで行くのでしょうか。

ポップな「RIN&CO.」の次は、「漆琳堂」ブランドの高級路線の漆器を作ろうとしています。これまでに作ってきたブランドを廃版にしたり、「お椀やうちだ」を「漆琳堂」へ集約しました。

王道感のある「漆琳堂」のロゴをgood design campany水野学さんに作っていただきました。ずっとカラフルな商品を作ってきましたが、漆琳堂にはこれまで長年培ってきた歴史と王道の漆器の形があるので、新商品というよりは、歴史ある漆琳堂というイメージを推し出していきます。

ーーショッピングバッグも漆琳堂の伝統を醸し出していますね。

水野さんからデザインの初稿データで送られてきたときは、これで良いのか?と思ったのが正直なところでしたが、水野さんの意見は、紙袋一つで漆琳堂の精神が伝わるのなら最高だと言われ、現物を見て納得しました。

今までのブランドはBtoCを目指してきていましたが、良質な漆器を求める飲食店さんや、福井では黒龍さんや永平寺の方が来てくださって、うちが昔から作ってきた歴史のある王道な漆器を購入していただいています。

東京の鮨の名店の方などにも漆器を購入していただいており、高級路線への軌道修正が進んでいます。

これから力を入れていこうとしている漆器は、老舗料亭で使われるような、歴史のある王道の漆器です。若手職人の嶋田や高橋も塗ることはできるのですが、商品説明をするとなると、歴史や食文化の知識も必要でなぜこのサイズなのかとか、誰が使うのかという話をして納得して購入していただけるためには知識がまだ足りないので、もう少し勉強の時間がかかるかなと思っています。

ーー最近内田さんはsnsに力を入れておられますよね。

漆琳堂との出会いの場が増えれば良いなと思い、自分の名前でのnoteとtwitter、会社でinstagramを始めました。
読みましたと言ってお店に来てくれる方もいるし、面接のときにnoteを読んで予習して挑んでいますという方がいたりして、情報発信がWeb、ECだけでは少ないと感じていたので、お店に来て漆器を見る前のタッチポイントを増やしている所です。

ーー今後の目標について教えてください。

漆琳堂が、漆器業や同業の方が一度見ておかないといけないと思われるような会社になるのが目標です。「越前漆器産地の一番星になる」という目標を掲げていて、売り上げが一番とかではなく、際立っていて感度の高い会社になりたいと思っています。

祖父や父は昔から、真似する側にはなるのではなく、真似される側になれるように頑張ろうと言ってきました。そのスタンスがあるので、今の自分たちがあると思います。

 

※全5回終了。
カバー写真:TsutomuOgino(TOMART:PhotoWorks)

 

【株式会社漆琳堂】
〒916-1221 福井県鯖江市西袋町701
TEL:0778-65-0630
https://shitsurindo.com/

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