丸山久右衛門商店 | 宮内庁御用達の老舗が動いている。次の世代を育てる新陳代謝の形がここにある。

築100年の古民家を改装したギャラリー&体験工房&カフェである「うるしギャラリー久右衛門」が、2019年9月、鯖江市河和田町にある中道通り沿いにリニューアルオープンしました。

この場所を運営するのは株式会社丸山久右衛門商店。明治43年に創業された漆器製造卸問屋の老舗です。本社の外観に掲げられた「宮内庁御用達」の文字が、高い品質を物語っているかのようです。

ギャラリーのオープンや通販事業の立ち上げなど、今勢いに乗る漆器の会社をご紹介します。

 

平均年齢は41歳。家族が力を合わせて家業を盛り上げる。

 

お話しいただいたのは販売・発送・会計・展示会出展など、様々な仕事を担当しつつ、子育ての合間には出張もされるという藤上さや香(ふじかみ・さやか)さん。20歳でこの世界に入り現在36歳の藤上さんは、丸山久右衛門商店の代表である丸山寿郎(まるやま・としろう)社長の実娘です。

「丸山久右衛門商店は卸をメインに小売もしている会社です。全国で催事があるのでスタッフたちは飛び回っていて、東京、名古屋、京都、大阪にいることが多いですね。どんな形でもオーダーできますので、その場でお客様に直接お会いして、声を聞くことを大切にしています。」

昨年度からは卸だけでなく通販部門が立ち上がり、若手3名を雇用して事業を進めているという藤上さん。スタッフ9名の平均年齢は41歳と、同業他社と比べると、とても若いことがわかります。

「通販事業は私の弟が中心となり、若手3人で少しずつ動き始めています。彼らは県内のIT企業に務めていたんですが、1年前に『家業を手伝いたい』と父に相談に来ました。父は2年間時間をあげるからその間に数字を作れと。わたしはwebのことは詳しくわかりませんが、数字が順調に上がっているので良い調子なのではと感じています。」

そして藤上さんのもう一人の弟である「礼央(れお)」さんが塗りの職人として2年前に加わり、うるしギャラリー久右衛門の1階にある工房でお仕事をされています。

「ここは元々うちの工房だったので塗師が仕事をしていたんですが、引退されてそのまま建物の老朽化が進んでいました。弟が職人として戻ってきたときに、仕事ができる状態ではなかったので、せっかくなので工房だけではなく、商品のディスプレイや体験ができるようにしたいと考えてリノベーションしました。」


(修繕前。ほとんど床が無い状態です。)

「現在は主にお椀・カップ・ボウル・マットなどを作っています。その中には食洗機や電子レンジ対応商品もたくさんあるんですが、今カップがブームなのかコーヒーセットやペアカップがよく出ますね。」

消費地問屋への卸に加え、東京にある百貨店「銀座三越」に販売スペースをお持ちの丸山久右衛門商店。こちらに並んでいる商品はよく売れているそうです。

「関西だと1個単位で売れるものが東京だと10個単位で売れるので、よく回転しています。昔に比べて財布の紐が固くなっているのは感じますが、若い世代にも漆器の良さを知ってもらい、少しずつ使っていってもらえれば良いなと思います。」

 

問屋だからこそ、大切なことは顔が見える関係であること。

 

「父である社長とは、福井への観光ツアーとタッグを組んで漆器制作体験を頑張っていこうと考えています。器に自分で絵を描いて、その場で持って帰れることってなかなか無いと思うので、貴重な経験になると思います。」

代々受け継がれてきた丸山久右衛門商店。これからも盛り上げていこうと、日々社長と話をされているそうです。

「社長はあと10年頑張ると言っていますが、その後のことはまだ話せていないので、近々に飲みながらでも相談してみようかなと思っています。小さい頃からずっと近くで見てきましたが、遊んでもらった記憶がないのでこれまで苦労してきたんだろうな……と思っています。」

先代が60歳で亡くなり、若くして現在の社長が会社を継がれました。そこから経営を学び、営業先を開拓し、大変なご苦労をされたのだとか。

「社長はうちのスタッフの誰よりもフットワークが軽くて、いつも動いています。自分が動いて会社を引っ張っていこうというタイプの社長で、私たちには愚痴も全くこぼさないですし、敵わないなといつも思っています。静岡での催事に両親と3人で初めて行ったんですが、真横で初めて社長が接客をしている姿を見ることができました。お客様に対する態度や言葉遣いはいつも勉強させてもらっていますね。」

藤上さんが中学生のときにはPTA会長もされていて、数年前には河和田地区の区長もされていた丸山社長。いつも笑顔で元気に地域の役割もしっかりと果たされながら、会社も新たな方向性を探っておられます。

「弟は、通販部門は毎日アイテムを増やし、文章や写真の美しさなども追求して差別化を頑張っているので、私は卸と小売を頑張っていきたいです。それはお客様の顔を見ながら仕事をしていきたいので、直接お会いして、物を触っていただいて、買っていただきたいという思いがずっとあるんです。」

卸をメインでされている会社では珍しく、フェイス・トゥ・フェイスの関係を大切にしたいと考える藤上さん。その思いに至ったのには、あるエピソードがありました。

「この仕事に就いて間もない頃、高島屋大阪店で1週間の催事があったんです。何事も経験だと社長に背中を押されて初めて行ったので、人はたくさんいるんですが売り方も何もわからず、お客様と何を話して良いのかもわからなくて……。そのときに、一人の50代の女性が『これは木製?』と陳列していた屠蘇器(とそき:一年の無病息災と長寿を願って飲むお目出度いお酒を飲む器のこと)について質問して来られました。」

当時はまだ漆器の知識も何も無い状態。それが木製かどうかもわからず。「実はまだ入社したばかりで……」と、説明できない自分が悔しくて泣きそうになったと話す藤上さん。

「そのお客様とは1時間くらい話していました。そうしたら『大丈夫よ、これから頑張りなさいね。あなたの人柄に惚れたので、私これを買っていくわ』と、10万円ほどの屠蘇器を買っていただきました。はじめて自分が商品を売ったこともあり、お互いにうるうると涙ぐんで、催事場でお客さんと抱き合いました(笑)

この日は、朝から晩まで立ちっぱなしで商品が全然売れなくて、ずっと下向いて気持ちが暗くなってしまってどうしよう……という状況でした。あのとき、一つの漆器を売るのがこんなに大変なのかと実感しましたね。もう15年くらい経ちますが未だに覚えていますし、その方とは今でも連絡を取り合っています。」

その方のお陰で今の私がある。だから直接お客様と会って話したいんだと、藤上さんは思い出を話してくださいました。お客様の顔が見える環境を大切に…。これらの経験から、卸し業だけでなく、ギャラリーや体験工房という新しいコンテンツを加え、エンドユーザーと実際に触れ合う環境づくりが生まれてきたのかもしれません。

 

工房見学とカフェスペース。職人の仕事を間近で見られる場所。

 

ギャラリーの1階には丸物を塗る工房があり、普段は藤上さんの弟である礼央さんがお仕事をされています(インタビュー当日は体調不良のためおやすみでした)。そして2階ギャラリーの奥には、角物を塗る工房スペースが空いているため、経験者であればお貸しすることも出来る場所なのだとか。

「私は年齢的にちょうど真ん中なので、お局みたいな存在になっているんですが、若い人たちの漆器への扱いが荒いときにはすぐ怒鳴ります。最近の若い子は怒るとすぐに辞めていくと言いますけど、私は根性のある人が好きなので、そういうことで辞めない、胆力のある人たちと良い仕事をしていきたいです。」

ちゃきちゃきした藤上さんやITに強い若手通販部門を抱える丸山久右衛門商店。気になった方は、ぜひ一度うるしギャラリー久右衛門を訪ねてみて下さい。この会社でどんなものが作られているのかひと目で分かりますよ。

 

 

【連絡先】
株式会社丸山久右衛門商店(ホームページはこちらから)
電話:0778-65-0011
FAX:0778-65-2763
メール:urushi@9emon.co.jp

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です