丸廣意匠 | 「河和田自体が大きな会社」助け助けられながら成長してきた廣瀬社長の産地論。

河和田での漆器の仕事は『魅力がある』と思っています。

「河和田で仕事をしながら日常の風景を見ていると、田舎やなあと感じます。都会に憧れるし羨ましいですが、自分の関わった商品が都会に出て行って活躍しているといるのを聞くと、十分ここでも勝負できるし、魅力的な場所だと思います。高価なものや世界のVIPへのお土産も作っていますし、この産地は何でもできるんです。」

廣瀬さんは、漆器の仕事と、このまちを本当に大切にされていているのだな……。仕事と暮らしが本当の意味で一つになっていて、なんだか羨ましいような、背筋がピンと伸びるような、不思議な感覚に包まれました。

漆器の「吹付け」の仕事は、普段漆器を使っている方でもほとんど見たことがないものだとか。

私たちの暮らしを支える様々な塗り製品には、それをつくる職人の高度な技術と想いがあります。新しい塗料や機械を有効活用することで、一日の生産量を上げつつもクオリティは落とさない。必要とする方が心から欲しい物をつくり出す。そんな職人の姿があります。

今回は、鯖江市北中町にある吹付け職人とその工房をご紹介します。

 

先代からのバトンを受け取り、決意新たにスタート。

 

丸廣意匠は、1983年にマルヒロ漆器として創業。2019年に現在の『丸廣意匠』に屋号を変更されました。意匠という言葉には自分が仕事をする上で大切にしている意味合いがすべて詰まっていた。ご縁あって出会えた東京 MUTE イトウさんにより誕生しました。大切にしていきたいです。そう話すのは、代表の廣瀬康弘(ひろせ・やすひろ)さん。現在44歳の若手職人です。

「父の仕事を11年前に引き継ぎ、木製専門の吹付けをしています。吹付けとは、塗料を機械で吹きかけ、塗装をする作業を指します。例えば手塗りだと1日20個しかつくれなかったものが、技術の進歩によって何倍もつくれるような、生産性の高い作業工程です。

同じ吹付けの仕事でもプラスチック、樹脂製品となると更に何倍もの生産性を生み出します。丸廣意匠で扱っている木製は塗料を吸い込んでしまうので、木地の磨き・下塗り・中塗りという、手塗りと同じ工程を踏んでいきます。」

手塗りで漆器を大量生産する場合、大勢の塗師の確保とコストという問題を解決しなければならず、また生産した漆器の在庫問題もありました。しかし、漆に変わる吹付け用塗料が開発され、製造工程と日数の短縮が可能になり、河和田の産地では早く安く生産できるように進歩してきたそうです。

業務用漆器、割烹の分野では「全国的には知られていませんが、塗りの高い技術力と生産力を持った河和田は、いろんな陶器の産地、また漆器の産地などから日本中の仕事があつまるようになっています」卸売りという分野によりあらゆる物に対応できる産業になって行ったのでは無いかと思います。」

これまで業務用の場合産地である河和田の名前は積極的には表に出ていませんでしたが、色々な情報をオープンにできる時代になった今がチャンスだと廣瀬さんは考えておられます。また一般の方が求められるのであれば、塗れるものならなんでも塗り、器にこだわる必要は無いと意気込んでおられます。

 

技術ゼロの状態で事業承継。仕事も技術も周りに助けられながら切り拓いてきた。

 

「幼いころから新幹線の運転手になりたいと思っていて、父がやっていた吹付けの仕事は汚れるしやりたくないと思っていました。父も同じように考えていたのか、高校卒業が近づき就職が決まっていなかった私が焦って『家を継ぎたい』と父に言うと『やめとけ』と言われました。」

大変な仕事だから続かないぞという、父なりのメッセージだったのでは……と振り返る廣瀬さん。卒業後は家業には入らず、鯖江市内にあるめがね屋さんで塗装の仕事を始めますが、程なくして会社が廃業してしまいます。その後しばらくの間、次の仕事が見つかる迄と思い親戚の漆器問屋でアルバイトをさせて貰いました。そこでやっぱり漆器の仕事がやりたいと思い始めた廣瀬さん。そのときの経験が、今の自分を作っていると話します。

「営業は見たことのない世界で『商品ってこうやって消費者に届くんだ』と面白さを感じていました。売るだけではなく商品の制作依頼もするので、河和田中の職人さんに木地・塗り・蒔絵などの全工程を教えていただきました。さらに商品が完成し、どういう店で売られていくのかという物流についても追いかけました。」

10年前、お父さんに病気が見つかりました。河和田では、夫婦で仕事をされている工房も多く、どちらかが動けなくなると廃業に追い込まれてしまうのだとか。廣瀬さんの家業もそのような状況だったため、営業の仕事を辞め、家業を継ぐことを決意されました。

「職人としての修行はしていないので技術は無く、営業で得た知識だけはある状態でした。仕事は少ない、父親は病院にいるのでどの塗料を使えば良いのかわからない、子どもは小さい、お金はない。最悪な状況でした。

河和田で職人として仕事をしていなかったので自分のことを知っている商人はほとんどいませんし、知っていても技術が無いことがバレると仕事がもらえないので、県外へ飛び込み営業に行くしかありませんでした。その先々で木工所などに『塗るお仕事をください』とお願いをして仕事をもらっていました。」

そのうちに少しずつ技術が上がり、塗れるようになっていった廣瀬さん。越前漆器協同組合に入るなどして、河和田の漆器問屋さんからも仕事を受注できるようになっていきました。

「吹付けの技術は父親だけでなく、当時営業をしていた頃にお世話になっていた職人さんに教えてもらうなど、組合の集まりで聞いたり、工房に来てもらったり……と、地域には、私にとっての親方がいっぱいいる状態です。木工所も蒔絵師も、沈金師もいる。これは僕の宝物です。

また、営業を経験しているといった私の特性として、塗料を混ぜていてる途中でも取引先から電話がかかってきたら作業を止めて、チャンスを取りに行く気持ちで品物を取りに行っていました。職人である父にはその行動が理解できず最初は怒られていましたが、仕事を車に積んで帰ってくるようになると、徐々に納得してくれるようになりました。今はお陰様でほとんど営業はしなくてもお仕事をいただけるようになりました。本当に有難いです。」

売上よりも塗料代の方が高い時期もしばらくあったという大変な状況を乗り越えて来られた廣瀬さん。家族全員が父の代で廃業すると考えていたためメンテナンスもせず、ボロボロだった工房を復活させ、さらに次世代へ繋ぐため2019年には工房の増築と新たな機械を導入されました。これから先の産地の未来について、子育て世代の廣瀬さんならではの想いがありました。

 

産地を維持することが重要。仕事と生活が共にある状態を次世代に繋げたい。

 

「これまで河和田は、個々の企業努力で切磋琢磨して沢山の技術が詰まった産地となります。そんな工房が集まった産地でした。ずっとそれを見ていて、良い部分も悪い部分もあったと思います。いい部分とは分業制により大きく発展してきたと言う事。しかし人口減少によって産地という山が一回り小さくなろうとしてる現在。今度は分業制が逆に弱点なのかと思います。でもこの分業制を守って行かなければならないと考えてます。これからは単独で頑張ろうという考えは捨てて、産地全体で繋がって少しでも山が小さくなる事が遅れてくれると良いなと考えています。」

職人でありながら営業的なセンスをお持ちの廣瀬さん。河和田地区が狭いエリアで産地になっていてありがたいと話します。

「職人、商人、資材屋、包材屋、全てが分業になっていて、遠く離れた所に営業に行かなくても良い。個々でされている仕事ですが、地区全体を俯瞰してみると多種多様な分野が詰め込まれていて、河和田自体が大きな会社のようだと気付いたんです。さらに、

  • 漆器の会合へ行くと同業者として会う
  • 小学校で子どもの同級生の保護者として会う
  • 町の催し物で地域住民として会う

という、仕事だけで繋がっているのではなく生活の中で繋がっている。この形が残ってくれると、大きな発展はしなくても、維持はしていけるのではないかと、かすかに期待しています。子どもに家業を継げとは言いませんが『やりたいんだけど』と言ってもらえるような背中を見せながら産地を維持していく事が出来たら嬉しいですね。」

河和田の未来を見据えて、上の世代と下の世代が揃っている今、恵まれた環境を大切にしていきたいと話す廣瀬さん。丸廣意匠での求人について伺いました。

「一緒に頑張ってくれる方とお仕事が出来るよう色々体制を模索してます。興味を持った方がいれば、連絡をいただければすごく嬉しいです。丸廣意匠の特徴として、職人としての仕事だけでなく、どんどん仕事を取ってきたり、掴めるチャンスを掴んできてほしいと思います。売れるか売れないかを決めるのは自分ではありません。何度も足を運んで回って売れなかったということと、最初から売れないと判断してしまうのは違いますから。当然、技術も大切ですが人間関係、人脈も本当に大切。広げて貰いたいです。」

受け継がれてきた技法だけではなく、新たな塗装の表情を模索し続けておられる丸廣意匠。どんな表現ができるか……と日々地域の問屋さんからの問題を解決したり、自社で出来ない分野のお仕事は、その分野の職人さんに仕事をお願いしたりなど段取りもされています。

お仕事を繋げる職人になりたい。

そう思った方はぜひ連絡してみてください。

 

 

【連絡先】
丸廣意匠(webページはこちらから)
〒916-1237 福井県鯖江市北中町535
TEL:0778-65-2209
MAIL:maruhiro.isho@gmail.com

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