井上徳⽊⼯ | ⽊地師⼀筋33年。⽣まれ育った場所、越前漆器の産地の将来を⾒据えた⽊地作り。

漆器職⼈と聞くと、お椀などを塗っている姿を想像する⽅が多いのではないでしょうか。

しかし、実は⼀括りに「漆器職⼈」と⾔っても⾊々な仕事があるのです。越前漆器の産地である河和⽥には、漆を塗るベースとなる⽊地を作る職⼈がいます。そんな⽊地の職⼈は、漆器業界では「⽊地師」と呼ばれており、その中でも、丸いお椀を作る職⼈は丸物⽊地師、四⾓いお盆や箱を作る職⼈を⾓物(かくもの)⽊地師と呼ばれています。

今回、お話を伺った有限会社井上徳⽊⼯の井上孝之(いのうえ・たかゆき)さんは、⾓物⽊地を作る⽊地師。

現在 51 歳の井上さんは、⾼校卒業してすぐに家業を継がれ、今年で 33 年⽬。⽣まれも育ちも河和⽥町……「コッテコテの河和⽥⼈」だそうです。井上徳⽊⼯のスタッフは現在、井上さん夫婦、姉夫婦、ご両親の 6⼈で、昔から家族で仕事を営まれてきました。

ご⾃宅の隣に併設された⼯房には、広い空間にたくさんの木工機械が並んでいます。

「似たような機械が何台もありますが、作るものによって刃物を替えて使っています。今は小ロット多品種で定番商品が少なくなったため、注⽂を受けて⼀通りの⽊地を作ろうと思うと、色んな機械と刃物が必要になるんです。毎回使うものもあるし、ときどきしか使わないものもあります。」

河和⽥には井上徳⽊⼯の他に10件ほど⾓物の⽊地を作る⼯房があるそうです。料理を盛り付ける業務⽤の器をメインで作っている⼯房や、お茶道具⽤の棚などの⼤きなものを作っている⼯房もあり、ハッキリとは分かれていませんが各⼯房によって作るものの得意分野があるようです。

「うちは河和⽥の中でいうと、書類箱、硯箱、賞状盆、重箱、お盆など調度品、迎春品、祝儀品など主に作ってきました。また、シンプルな形状で精度が分かる箱物が得意です。逆に木彫などや曲面で出来たものなどは不得意ですね。」

 

先代から積み上げてきた井上徳⽊⼯の技術が眠る倉庫へ 。

 

⼯房の2階には井上徳⽊⼯がこれまで作ってきた商品のサンプル倉庫があります。

福井県鯖江市・越前市・越前町で開催される⼯房⾒学イベント「RENEW」のパンフレットや Web サイトの写真に何度か使⽤されており「井上徳⽊⼯のサンプル倉庫は⾒に⾏ったほうがいい!」と、巷で噂になっている場所なのです。

棚にぎゅうぎゅうに詰まったサンプルたちは、収まりきらずに床にも並んでいます。

「10年前くらいは、地元の⼩学校1クラスが⾒学に来ても座れるスペースがあったのに、今では宝物探しの様な店舗のドン・キホーテみたいな状態です(笑)」

「今と昔では注⽂の量や内容も変わってきていて、ここ数年前からは特に多種多様なものづくりになってきたと感じています。これまでは決まった形・決まったサイズの商品をずっと製造していましたが、一度きりの商品やサイズ違いの依頼が多くなってきました。

うちの定番品だった書類箱、賞状盆、重箱といったものは注⽂が徐々に減ってきています。確かに従来の形や大きさでは今の時代には合わないものもあり、⾃分でも作っていてしっくりこないなと感じる事があります。」

時代が変わり、注⽂の依頼も変化しているという井上さん。これまで受けてきたお仕事は全て型見本として倉庫に残しているそうです。⻑年の産地の歴史と、伝承されてきた井上徳⽊⼯の技術が⽇々蓄積されています。

「このサンプルは型見本なので次回に作る商品の現物合わせのものです。もちろん仕様書や図⾯を残して作っても良いのですが、現物を⾒て作る方が間違いないしサイズ感も分かるので、ほぼ全ての生産品はサンプルとして保管しています。」

「ほとんどの商品は作り⽅などが全て頭に⼊っていますが、時々後から⾒てもどうやって作ったのか悩むものもあるんです。そのときは過去の⾃分にどうして作ったんや? 教えてほしい! って思いますね(笑)」

「頭の中で作業⼯程が踏めるものはだいたい作ることが出来るので、打ち合わせの時には図⾯を⾒て頭の中で⼯程を踏んで作り⽅のシミュレーションをしていますね。それと世の中にある⽊製品を⾒ている時にも作業⼯程を考えてしまいます。手間のかかっている作りにしているなぁとか、こうすればいいのに……と思うことは結構ありますね。」

漆を塗る前の⽊地の姿はなかなか⾒ることが出来ないので、ものづくりを勉強している学⽣やデザイナーが⾒学に来ると、1⽇中この倉庫にいることもあるそうです。

近年の印象に残っているお仕事を聞いてみました。

「2018年に越前市にあるセレクトショップataWで発表された箱の制作をしました。横⽥純⼀郎さんという方がデザインされたのですが、その箱が近年で作っていてワクワクしましたね。この箱は、カタチこそシンプルで木工経験者が機械を使えば誰にでも作れそうなものですが、すべての⾓度を45度にカットしており、どこまで精度が出せるかが難しいのです。そして節やひび割れなども使い色々な材料を組み合わせるバランスが大変でした。でもきっちりと合わせられた時に、⾃分の腕や技術でどこまで表現できているのかが確認出来ます。この箱は、そういった意味で出来上がった時の充実感があり気持ち良かったものです。」

「このようなシンプルな形状の箱を作ると常々感じるのですが機械や道具は、使われるのでは無く使うものだと思うんです。いくら機械や道具が同じでも、使う⼈間によって精度や仕上がりに差が出て来るんです。」

 

職⼈のあり⽅、産地の将来、模索しながら進む姿

 

井上さんには3⼈の息⼦さんがいるそうで、⻑男さんは福井市内で住宅メーカーの営業職、次男さんも福井市内で店舗などの什器などを作る職人を。3番⽬の息⼦さんは現在高校生で、⼤学に進学予定だそうです。

「⼦どもたちには、後々河和⽥に帰ってきて家業を継いで欲しいと思っていますが、息⼦たちだけではなく私の右腕になってくれる⼈にも出会いたいと思っています。」

「後継者が育たないということは儲かっていないということも要因にあって、子どもの意思ではなく、継がせることが出来なくなってしまっている状況があります。家業として成り立っていければが良いと思うのですが、何をすれば良いのか…答えは簡単には⾒つかりませんね。」

「でもこれからは、産地としての漆器を支える仕事はもちろんですが、オリジナル商品も作って⾏きたいという思いはあります。最終的には⾃社商品を販売出来る状況を⽬指していて、井上徳⽊⼯のブランディングも依頼しています。」

最後にコッテコテの河和⽥⼈、井上さんに河和⽥という「産地」への思いについて聞いてみました。

「言葉では『ものを産出する土地』なんですが、大きな企業があって作業員が働いているだけでは本当の産地とは思いません。そうであるなら流通のあまり便利じゃない河和⽥でなくていいはずです。私は河和田という土地に暮らし木地、塗り、加飾、販売と様々な⼈が集まっていることが産地だと感じているので、『ものを作る職人が暮らす土地』が産地だと思います。

職⼈は、⾊々な知識と経験をしてこそ⼀⼈前になっていくと思っていて、漆を塗る⼈もいれば、絵を描く⼈もいる。そんな様々な職⼈が集まる中でお酒を飲みながら仕事の話ができる、そんな環境が河和田にはあります。これからもそれが続く河和⽥がいいですね。」

「私⾃⾝、親世代の職⼈と仲良くさせてもらっていることが新しいものづくりの糧にもなっています。河和⽥は「ものづくりが盛んなエリア」ではなくて、「多くの職人たちが暮らし新しいものを生み出せる土地」です。単純な⾔葉通りの意味じゃない「産地=職人との繋がりの場」として地域があって欲しいと思っています。」

近年多くのデザイナーの商品を作ることも増えてきたという井上さん。

求⼈に関しては、是⾮うちに来てください! と⾔うものでもないとのことですが、正直⼀⼈では⼤変なときもあるそうです。井上徳木工の⽊地にすごく興味があったり、⽊⼯製品を作りたい、⾃分で考えたものを表現したいと⾔う熱い思いのある⼈には技術を教えていきたいとのこと。

まずは、井上さんの技術を覗きに⾏ってみてはいかがでしょうか。

 

【連絡先】
有限会社井上徳⽊⼯(webページはこちらから)
福井県鯖江市河和⽥町 26-19
TEL:0778-65-0338
MAIL:info@tokumokkou.jp

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