井上徳木工vol.2 | 進化を続ける木工の仕事。工場がメーカーに変わるとき。
ちょうど二年前に取材をさせていただいた「有限会社 井上徳木工」。その後、新型コロナウイルスが世界中で猛威をふるい、越前漆器も大打撃を受けました。
いったい会社にどのように変化があったのか。追跡取材を行いました。
前回の記事はこちら。
「⽊地師⼀筋33年。⽣まれ育った場所、越前漆器の産地の将来を⾒据えた⽊地作り。」
はじめての職人募集。
今回改めて工房を訪ねお話を伺ったのは、二年前にもお話をいただいた井上孝之(いのうえ・たかゆき)さん。⾓物⽊地を作る⽊地師で、今年で53歳になられました。
「コロナの影響は一時的にありましたが、少しずつ持ち直してきました。元気を無くさずやっていこうということで、今年、自社ブランド『Lr BY INOUE TOKUMOKKOU』を立ち上げたことと、近年での小ロット多品種、しかも短期納品であることから、現在一緒に木地作りをしてくれる方を募集しています。」
井上徳木工の製品を作ってみたいという方がいれば採用したいと考えておられる井上さん。これまで、家業として続けてこられた木工の仕事に、外部人材を入れることに関しては大冒険だと話します。
「今後拡大していく中で、家業として回していくことは難しくなってくるだろうと悩んだ結果、親族以外の人材が欲しいなと思い至りました。働きたいという話はちょこちょこあるのですが、実際に採用するところまでは進んでいません。
外部採用とは別ですが、うちの子どもは3人兄弟で、今2番目の息子は店舗什器を作っている福井の会社で働いています。来年には戻ってくる予定で計画しているので、外で経験してきたことに加えて自分が教えていけたらと考えています。」
現在、井上徳木工の仕事の8割をまかなう井上さん。作業効率はどこかで悪くなるかもしれませんが、末永くクオリティを保った仕事をしていこうと考えると、誰でも技術を習得していけるような仕組みを整えていかなければならないと考えておられます。
「ずっと徳木工にいるという考え方でなくても良くて、『修行先』みたいな感じで来てもらうのもありだと思っています。ある程度ノウハウを身に着けて、うちの商品を外注で作ってくれるようになるというのも嬉しいですね。」
念願の、自社ブランド誕生。
「これまで、井上徳木工の特徴を聞かれたときに、特徴なんてあるかな…?と思っていました。機械があればどこでも作れるし、うちが特別なわけじゃない。でもお客さんと話していると、技術に感動してくれたり、サンプル場を見て驚いてもらったりしてくれるんです。そんな方を増やしたくて、井上徳木工をPRできる何かを作っていきたいと思っていたタイミングでした。」
そんなとき、2020年に「RENEW LABORATORY」という、デザイナーと職人が二人三脚で商品開発をするという企画があり、井上さんが参加をされました。
「トランクデザインという神戸のデザイン事務所の代表である堀内くんとペアになり、何を作りたいかを考えました。漆を塗ると自社の木製品であるということが見えづらいし、色々な木を使って雑貨を作るというのも違うし…。
最終的に、仕口(パーツの角や収まりなど)を大切にし、シンプルに削ぎ落とした形の美しさを見せる商品というところに辿り着きました。素材は、いつもの木製漆器で使っている材料を使うことで越前漆器の角物木地らしさを出しています。」
「新ブランドの名前は「Lr」といいます。角の「L」と、ノミで中を削り取った丸みで「r」です。
1円玉より小さかったりするような角目のパーツの組み合わせを活かしていて、これまでだと塗りで隠れていた補強材なども、美しく見せていきます。漆器職人の中には、「ベニヤ板の断面が見えているなんて…」と言う人もいると思います。でも、それもあえて見せている意欲作です。」
拭き漆の箱物は少ないそうで、その理由はパーツを固定しているボンドがはみ出ていると、漆をはじいて色が載らないから。木工をやっている人が見たら、綺麗に作ってあるということがわかるのだとか。
「塗りがシンプルゆえに全てが見えてしまうため、形が全てです。精度にすごく神経を使いながら作らなければなりません。」
このブランドの商品ラインナップは、重箱・トレー・プレート・書類入れ。そしてそれぞれのサイズが大・中・小。カラーは全て2種類の展開です。
「RENEW LABORATORYの発表会では3個売れたんです。今回は発表だけできたら良いかなと考えていたので驚いたのを覚えています。私は対応していませんでしたが、『井上徳木工の商品をやっと買えて嬉しい』という声もありました。」
これまで井上徳木工には自社商品が無かったため、まだLrを作って売るという体制を整えられてないと話す井上さん。普段のお仕事も忙しく、まだまだ手探り状態なのだとか。
井上徳木工の目指す将来像とは。
「私は数年前から、自社の商品を作って販売するメーカーになりたいと考えるようになり、その一つのきっかけとしてブランドを作りました。」
職人が卸や最終製品を作って直販することは、本来産地の中では敬遠される行為ですが、コロナの影響もあってか、近頃はそのしがらみも少なくなってきていると感じておられる井上さん。産地の空気感が変わってきているようです。
「それは肌で感じますね。問屋からの仕事量が減ってきているので、自分たちでも仕事を作らないといけませんが私たち職人は技術があってもアピールが本当に苦手なんです。コロナの影響のように急に仕事が無くなったら、仕事を待っているだけの職人はどうして良いかわからなくなってしまう。今までだけの仕事をしていたらいざというときに困るので、少しずつ世界を広げていかなくてはと危機感を感じています。」
展示会への参加も始めた井上さん。参加をしてみて、問い合わせなどの反応もあり、自分で商品やその背景について説明することの大切さを感じておられます。
「なんで自分が職人になったのかというと、そういう説明とかが嫌だったからです(笑)。でも、自分の言葉で作り手の思いを話す良い勉強になっていると今は捉えています。RENEWで初めての人と話すことが練習になっていましたね。」
会社の規模感とクラフトというブランドイメージに合った、「ててて商談会」からスタートされた井上さん。何度も出展することは小さな工場では大変なこともありますが、先を見据えて動いておられます。
「最近、飲食店の方と付き合いが増えてきました。『こんなものが欲しい』と依頼を受けますが、ほとんどがサイズとイメージを伝えられるだけです(笑)でも、ざっくりとした依頼からでもお客さんの求める品物を提案して作ることが出来るようなメーカーにもなりたいですよね。」
少しずつ進化をする井上徳木工。変化のタイミングに立ち会い、共に盛り上げたい!という方は、ぜひ連絡をしてみてはいかがでしょうか。
【連絡先】
有限会社井上徳木工(webページはこちらから)
福井県鯖江市河和⽥町26-19
TEL:0778-65-0338
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