越前漆器株式会社 | 安価なものから高級品まで。時代の変化を探りながらオールラウンドな商品作りを。

漆器制作における全行程の道具が保管されている八幡神社の近くに、重厚な赤レンガが際立つ3階の建物。それが「越前漆器株式会社」です。この会社では、産地の職人の技術を生かし、家庭用の椀や皿、箸などをはじめ、各種小物、ギフト商品、特注商品など幅広い商品の企画と卸業を、家族経営でされています。

はじめにお話を伺ったのは専務の森下桂樹(もりした・けいき)さん。昭和29年生まれ、現在65歳の森下さん。長年、卸の仕事をしている経験から、自社製品の売れ筋を見るだけで、時代の変化やライフスタイルの移り変わりなど手に取るようにわかるそうです。

 

越前漆器の歴史をたどる。歴代のヒット商品たちが列をなす。

 

先代の、森下さんのお父様が20代の頃、昭和30年代までは交通の便が悪く、近隣の市町村まで自転車にリヤカーを付けて行商に出ておられたとのこと。

「地方だと昔は、婚礼や法事などの冠婚葬祭は自宅を使っていたので、ご近所さんはじめ、親戚縁者など大勢のお客様を招待していました。特に福井ではおもてなしには脚付のお膳と八重椀(お椀が8つ重なっているもの)を使うので、どの家庭でも揃えていました。ですから私たちは、脚付膳と八重椀の行商に力を入れていて、当時、一番の売れ筋ヒット商品でした。しかし、時代と共に脚付御膳を使う家庭は少なくなり、当時、みんな昔使っていたお膳を蔵の中で持て余しているのではないでしょうか。」

そんな時代を経て、昭和35年頃になると高度経済成長の追い風もあり、第一次ベビーブーム、今の団塊の世代が結婚、出産子育て…と、越前漆器の商材は大きく分けて「割烹」「ギフト」「デイリー」という3つのカテゴリーに別れて行きます。

  • 割烹:ホテルや旅館、料亭などで、食事のときに出す器が大口のセットで大量に求められました。
  • ギフト:引出物などは、2,000〜3,000円でお椀10個・お箸5個・お盆5膳セットが入っているという驚くほどボリュームのあるギフトセットが求められました。
  • デイリー:核家族化もはじまりつつあったので、個人宅で使う器やお重などが1セットずつも求められました。

「そんな中で、私たちの会社は、冠婚葬祭で贈るギフト向け商品の卸が事業内容の多くを占めてきました。」

「しかし、最近の引出物は、内容が多ければ良いという感覚は無くなり、持ち帰りの荷物が少ないスマートなカタログギフトが選ばれることが多くなり、贈り物を貰う人が自由に選択できるようになりましたよね。我々の商品も掲載されてはいるのですが、食べ物を選んだりすることが増えてきて、ギフト向けで作っていた商品は徐々に外れてきているのが現状です。」

ギフトを贈る側は選ぶ手間が減って楽ちんに。また、貰う側は自由な選択が出来るといった楽しみに。ギフトの流通が変化し、消費者の反面、生産者や卸業界では苦しい現実があるようです。

こうした時代を共に歩んできたデパートや小売店が主な卸先という越前漆器株式会社。しかし、デパートも新しい時代とともに形態が変化しています。

「今はデパート自体が衰退しており、利益を出す事が厳しい状況です。呉服店は無くなり、電化製品やカメラなども家電量販店やインターネットで買う時代となり、デパートではもう売っていません。今後デパートという流通の場で何で勝てるのかと考えると、食料品や化粧品、アパレルになっていきます。

生活や流通の様式が変わってきていて、家庭用品の売り場自体も無くなってきています。インターネットの発展に合わせて、私たちも様々な対応をしていますが、これまでとは違った手法を考えないといけない。時代をよく観察して、会社自体がどんどん変化をしていかなければいけないのです。」

「私は、お鍋を食べるときの食器は絶対に漆器のお椀が良いと思います。陶器は熱を通すので持つと熱いですから。」

こういったお話も、今まではデパートの店頭に立って「木製の漆器は熱を伝えづらいので良いですよ」と、手に取ってもらい説明をしてこられたそうですが、そもそもデパートの中でお客様に向けて説明をする場所が、無くなってきているそうです。

「今は、こだわりのあるものにはお金をいくらでも出しますが、こだわりがなければ同じ機能を持ったものが100円均一でも手に入るので、安いもので済ませば良いという思考になってしまうことが我々には厳しい現実ですね。」

2階にあるショールームにはたくさんの商品が並びます。

「ここに来るのはデパートの担当者や問屋といったバイヤーです。本当は、ここを見てもらい、実際に手に取って商品を見てもらえたら、漆器の良さをわかってもらえるんですけどね笑。この記事を見たっていう人でしたらおおっぴらにはしていないのですが小売もしていますし、いつでも見にきてもらって良いですよ。」

 

テーブルウェアからファッションへ。漆の魅力を他分野にも広げていく。

 

次にお話を伺いしたのは森下洋輔(もりした・ようすけ)さん。森下桂樹さんの甥っ子です。商品の企画や開発をされている洋輔さんに、越前漆器株式会社の商品作りについて聞いてみました。

「この会社は自由さが魅力で、いろんな商品にチャレンジできます。取り扱っている商品は全て自分たちで商品開発をしていますし、漆器だけにこだわらずオールラウンドでやっており、アクセサリーなどのオリジナル商品も、年間20点ほど誕生しています。」

「たくさんの商品を開発していますが、外部のデザイナーを入れているわけではなく自社で商品を作っています。最近では『テーブルウェアだけでなく、ファッション業界に入っていこう』と漆ピンズを企画開発しました。30〜40代の若い方は結構買ってくださって、うちの新たなヒット商品になりました。この漆ピンズをきっかけに、若い方に漆の魅力を伝え、漆器を知ってもらう入り口になるのではないかと思っています。」

若い人が漆を知るきっかけはお椀からでなくても良いと考えている洋輔さん。まずは興味が無いところからでも商品を買って興味を持ってもらい、お椀や器への興味につながっていって欲しいと期待をされています。

高校卒業後は、専門学校でコンピューターグラフィックスを学んでいたという洋輔さん。

「うちには様々な依頼が来ます。例えば校章や家紋などをつけて欲しいというときにはグラフィックソフトを使ってトレースをして、データを作ったりしています。」

洋輔さんは生まれも育ちも河和田地区。同級生の中では3人ほどが現在も漆器に関わる仕事をされているのだとか。

「小学校からの関係は変わらず、昔から仲が良いです。ときには仕事の相談をするときもあるのですが、同級生の木地職人からは『この商品に高価な材料を使う意味があるのか?』とか確認が入ったり、『厚みが1ミリ薄くなったら安くなるのか?』といった単価の相談なども、昔からの関係なので何でも話して聞きやすい環境で仕事ができます。無理なことは無理とはっきり言える関係でもありますね笑」

お仕事をされる中で、昔と違って若い方との接点が減っているという森下さん。ぜひ漆の魅力を見に、鯖江に遊びに来てほしいと話します。

「若い人は、うちにあるような漆器はあまり見たことがないのかもしれないなと感じています。見たことないものばかりで、実際に手に取るチャンスもなかなかないだろうから購買に繋がりづらいと思います。うちのショールームに来てもらえれば、漆器の魅力をまるっとお伝えしますよ。」

割烹で使用される高級漆器から近年のライフスタイルに合った漆を使ったアクセサリーまで、幅広い商品ラインナップを揃えている越前漆器株式会社のショールーム。長年漆器に携わられている森下さんの漆器に関する知識は確かなものです。ぜひ漆を使ったたくさんの商品を覗きに行ってみてはいかがでしょうか。

 

 

【連絡先】
越前漆器株式会社(webページはこちらから)
KORINDOオンラインストア(webページはこちらから)
〒916-1223 福井県鯖江市莇生田町16-19
TEL:0778-65-1525
FAX:0778-65-1528
MAIL:korindo@quartz.ocn.ne.jp

 

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