下村漆器店 | 管理栄養士が働く漆器店!? コトづくりからモノづくりへの展開を目指して研究の日々。

福井銀行河和田支店やJAたんなん河和田出張所が立ち並ぶ交差点を東へ抜けると、鯖江市片山町の住宅街の中に「一味違う 器をあなたに」と書かれた看板が見えてきます。

日々、栄養に配慮した食事のメニューを考える管理栄養士がいる漆器屋「下村漆器店」。こんなに研究熱心な漆器屋は日本で唯一かもしれません。

これまで納入不可能だった「病院の食器」に目をつけ、食器を生かす為のシステムも開発をされ、コトづくりに力を入れて漆器を発展させておられます。漆器が世の中を変える。下村漆器店ならそれが可能かもしれません。

お話を伺ったのは代表の下村昭夫(しもむら・あきお)さん。1900年創業、120年の伝統と歴史がある下村漆器店は、現在社員18名のうち博士が3名いるという、新素材や新商品の開発に注力されている会社です。下村漆器店は福井大学・仁愛大学の2大学と共同研究を行っており、さらに会社内には福井大学のサテライト研究室が入っているという特殊な環境です。

 

バブル崩壊で経営危機に。業務用漆器製造で生き残るために、人生を懸けた研究へ進む。

 

1980年代後半、バブル経済期に高校生だった下村さんは、夜になってもずっと仕事をしていて電気が消えない産地の姿を見て育ちました。日本中に建設されるホテルや旅館の開業に合わせて業務用食器の製造をとにかく間に合わせなければならないという状況で、忙しすぎる家業を手伝っていた下村さんは、この仕事は絶対に継がないと思っておられたそうです。

「そう思っていたのですが、大学在学中に電話で『10万円のお椀を100個ください』という注文が入って来ていたことをふと思い出しました。当時の私は、電話一本でこんなにお金がもらえるのなら、どこかへ行っている場合じゃない。実家へ戻ったら儲かるんだ!と思い、大学卒業後すぐに実家へ帰ってきました。」

1988年、当時はバブルの絶頂期。漆器は儲かると思い実家に帰ってきたものの、90年にはバブルが崩壊。注文の電話が全然鳴らず、みんな暇そうにしている……。一時期会社を辞めた方が良いのではないか思うほど厳しい時期もあったそうです。

辞めるか、辞めないか……。その頃に結婚をされて家族を持った下村さんは、会社が無くなると社員の家族はどうなるのだろうかと責任を感じ、もう少し頑張ってみようと決断されました。

 

ホテル業界の卸から転換へ。誰も踏み込めなかった業界へ踏み込んでいく

 

「なんとか会社を続けなければいけない。ホテル業界はもう厳しいが、これから超高齢化が進む日本には福祉医療分野が伸びるだろうと考え、まだ誰も売り込んでいなかった病院へ漆器の売り込みに行きました。

病院では『漆器なんて高級な食器はいらない』と言われ続けていたのですが、何度も足を運ぶ中で病院の食事についての要望をヒアリングすることができました。

  • 人件費を落としたい。
  • エネルギーを抑えたい。
  • 美味しい料理を食べてもらいたい。
  • 食中毒を防がなければならない。

さらに、使うならば耐久・耐熱性のある食器が欲しいという現場の声を聞くことができて、病院に漆器を買ってもらうためにはまず耐熱性のある漆器を作り、満足してもらおうと思い研究を始めたのです。

その頃、偶然にも別の会社から耐久・耐熱性がある、IH調理器具に対応できる新しい食器を作って欲しいという話が入って来ました。誰もまだやっていない分野だし、これができれば世の中が劇的に変わると思い、本格的に調理と漆器の研究開発を始めました。」

こうして下村さんが辿り着いたのが、インカートクックシステムです。これは、食材と調味料を専用の食器に盛り付けてお盆に載せ、専用の装置(カート)にセットすると、内蔵されているIHヒーターによって調理ができるという、個別加熱調理システムです。下村さんは、このインカートクックシステムに対応できる超耐久性のある食器を、漆を何度も積層していく技術を応用して、ハイブリッドセラミック塗装で作り上げたそうです。

大学と連携をしている下村漆器店は、分析がすぐにできるという環境があります。漆の表面や断面層を顕微鏡で10,000倍に拡大をして、漆の乾燥過程の積層の密着具合を研究して耐久性を追求して行きました。

「耐久性のある漆器を生み出し、温かい料理が提供できるシステムが完成したものの、食事メニューが無いと365日食事が必要な病院では活かせない。今度は食の面からも提案をしていくために、仁愛大学と共同で研究を進めて行きました。」

現在は社内に栄養部があり、2人の管理栄養士が社員としてオフィスの一角でインカートクック用のメニュー開発を進めておられます。食材ごとに必要な加熱時間、料理ごとの適切な温度を求め、ボタン一つで完成するまでのプログラム作りは、社内に在籍しているプログラムエンジニアがされています。

日々、メニュー作りを進めている管理栄養士の鈴木千明(すずき・ちあき)さんと、吉川実里(よしかわ・みさと)さん。二人で、テキパキと盛り付けを進めていきます。

病院の食事づくりは早朝から食材の準備や調理をしなければいけない時間的にも体力的にもハードな職業ですが、このインカートクックシステムが広がれば、調理時間がぐっと短くなります。

まだ開発途中ではありますが、二人の開発したメニューを使い、既にインカートクックシステムを取り入れ、暖かいできたての食事を提供している病院もあり、今後はこのシステムを県外へもっと広げようと意気込んでおられます。

安心安全な食材と丁寧な盛り付けで、通常の病院食では考えられないようなしっかりとした料理ができるインカートクックシステムをさらに発展させるため、一流シェフにメニューを考えてもらう機会を設けたり、新しいシステムを開発したりなど、更なる進化や活用方法を研究されているのだとか。

「例えば、腎臓が悪くて入院をしていた人が、退院後に自分の身体に合わせた料理が食べられるように、家庭で使えるような卓上の調理システムの開発を進めています。」

病院と意見交換をする中で得た情報から、料理の開発まで手がけるようになった下村漆器店。漆器から食までを合わせて掘り下げられる、インカートクックシステムの可能性をどんどん広げておられます。

「私たちの会社がある河和田地区は、高齢者の町になりつつあります。しかし、ものづくりの仕事をしていたり、家庭菜園をしていたりとアクティブな高齢者も多く、ご自身で料理をする方も多いです。どんな野菜や調味料を使っているかなど、地域からもデータは集めて管理栄養士が塩分量を調べたり、健康アドバイスをするなど、地域にも恩返しができるのではと考えています。」

河和田に住んでいたら健康な美味しい料理を届けられる。そんなまちにしたいと下村さんは計画されているので、河和田から新しい事業を始めるための試行錯誤中です。

「このシステムが上手く回っていくと、産地も食器がたくさん作れるようになり、産業も回っていくと考えています。産地内に技術さえ残ればモノは作ることができると思います。

しかし私は、この産地にいろんなコトが出来てほしいと思います。コトが出来上がればモノがついて来るので、コトが作れるような若い世代が育ってほしい。自分がその道を切り拓いていけたらと思います。そうなればものづくりの産地として河和田は残っていくでしょう。」

地元で試行錯誤しながら研究を進めて行きたいと意気込む下村さん。様々なネットワークを通じて、使い方は無限に広がります。

 

 

【連絡先】
株式会社下村漆器店(webページはこちらから)
〒916-1223 福井県鯖江市片山町8-7
TEL:0778-65-0024
FAX:0778-65-2202
MAIL:info@shimomurashikki.co.jp

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