末広漆器製作所 | 自信を持って全国へ。宝を獲りに24時間突き進む。

北陸自動車道鯖江インターチェンジから車で15分。うるしの里通りを東へ走ると「Suehiro」と看板を掲げる3階建の建物が見えてきます。

走行距離は年間10万キロ。今日も社長は車で日本全国を飛び回り、ホテルや飲食店を回っています。 

「なぜものづくりをせずに営業に行くのか、よく疑問に思われますが、ネタは全て現場にあるんです。現場を訪れて、困っていることや欲しがっているアイデアを拾い上げて、研究をしています。」

お話を伺ったのは、株式会社末広漆器製作所代表の市橋啓一(いちはし・けいいち)さん。webサイトには数ヶ月先までびっしり予定が埋まった市橋さんの出張スケジュールが常に更新・公開されておられるのが特徴的です。

「お客様には、公開しているスケジュールを見ていただき、都合に会う時間で打ち合わせのアポをとっていただいています。いきなり電話をしても、相手は準備が整っていないかもしれない。車を運転しているかもしれないし、相手がどういう状態かわからない。なので、全てをオープンにして合理的にしています。」

また同業者へ向けては、情報を全て公開することで、うちはこれくらいやっているから、仕事を取ることが出来ているという煽りの側面もあるようです。

 

特殊な技術をモノにする。差別化した商品を生み出して全国をマーケットにする。

 

末広漆器製作所の2階ショールームには、これまで市橋さんが日本全国を駆け巡り作ってきた器やお盆など、様々な商品がびっしり並んでいるアーカイブスペースがあります。

「末広漆器製作所は、主に樹脂プラスチックにウレタン塗装をした器を扱っています。漆は使用しておらず、基本的には化学塗料の漆器です。食器は全て食洗機対応で、チェーン展開しているお店やホテルレストランといった外食産業向けの器を作成しております。

『漆は使ってないの?』とたまに言われることがありますが、注文があれば生産をするくらいで、基本は化学塗料です。越前漆器の産地は分業制なのですが、外注先の腕の良い職人さんに漆塗りをお願いしています。」

末広漆器製作所が得意とするのは樹脂プラスチックの化学塗料塗り。ガラスコーティングをかけた、含浸(がんしん)加工というオリジナルの特殊加工技術を持っています。

「含浸加工は、産地にいくつかある他社のウレタン塗装漆器とは違う市場で、木製の風呂桶や風呂椅子に適用しています。木の中に、溶液を含浸させて撥水させて抗菌作用を出しており、滑りにくく、塗膜が剥がれません。化学塗料は普通シンナーの匂いがするのですが、研究を重ねて匂いが出ないようになっています。」

36歳で末広漆器製作所の代表となった市橋さん。含浸技術に出会ったのはある交流会で出会った方とのご縁でした。食事をしていた際に、含浸技術に使える液剤の話をたまたま聞き、その場で研究者に会う約束を取り付けて、翌日すぐさま横浜へ向かいました。

「そこでは『毎日のようにいろんな方が液剤の可能性を求めて来られます。ですが99%の方が物にならずにやめています』という話を聞きました。」

  • どういう加工をすればいいのか
  • どういうものに加工が適合するのか
  • どれだけの耐久性があるのか

当時は、全てが未知の液剤だったそうです。

「私は漆器制作会社の社長ですが、モノを作ったことはないんです。塗りもできませんし、絵も描けません。デザインもほぼほぼできません。売ること一本で日本中を飛び回っています。

ですので、出張に行っている間に液剤を使った含浸技術の構想を重ねては持ち帰り、実験を繰り返し、営業先ではモニタリングとして実地経験を何度も踏んでいきました。

1年間研究を続けて、含浸加工のメンテナンス方法や使い方をお伝えし、説得要素を作り上げて商品に繋げて行くことができました。」

 

仕事というのは『絶対努力』。目に見えない努力があるからこそ良い仕事ができる。

 

もともと市橋さんのお爺様は下地の塗り職人で、お父様はプラスチックに化学塗料を塗る職人として漆器に携わって来られた職人家系でした。しかし、昭和31年のオイルショックで仕事が激減してしまいます。待っていても仕事が無いので一度勝負をしたいと思い、市橋さんの父親が営業に出たのが今の会社形態の始まりです。

「我々は職人からのスタートだったのでBtoBでやってきましたが、マーケットがインターネットに切り替わって行く中で、このままでは将来性がなく絶対にダメだと思い、今はBtoCにも徐々に切り替えています。」

BtoBとBtoCの大きな違いは、お客様へ使い方の説明だと話す市橋さん。作りあげた機能性や、コンセプトをいかに情報発信ができるか。直接お伝えすることはもちろん、動画やWebなど様々な方法で発信し、使い方や使い方のコツをお伝えしているようです。

「情報を全てオープンにしているので、私の行動を見ている人から、物売りの方法がわからない、何をしたらいいか分からないという相談を受けるのですが、私はひとつずつ、自分で分析したことをやるだけだと思っています。野球でも常日頃練習をしているから、ホームランやヒットが出る。それでも3割しか出ません。3割も打てたら大したもの!私たち漆器屋は3割のヒットが出せるだけの努力をしているのだろうか!と思うことはありますね。」

市橋さんがいつも心に刻み込んでいる教訓は会計事務所の先生に言われた「経営者は24時間寝ずに仕事にしてください。」という言葉。24時間オンだけど、その中のオン・オフを自分で作る。スッキリするために朝5時から6キロのランニングをしたり、一人になりたいからゴルフの打ちっ放しを始めたり、気持ちの切り替えでオンオフを作り出されているのだとか。自らの働くスタイルに合わせて合理化されています。

「営業を回っているというと『経費かかるでしょ?』と、一番に出張経費の心配をされるんです。私は出張というのは全国の宝物を取りに行っていると思っています。みんな、ある場所に宝物が埋まっていると知ったらすぐに行くと思います。今すぐ行くのか、経費を検討してから行くのかだけの違いです。早く行かなかったら誰かに取られてしまうかもしれない。動き出さないとそこからは進まないし、何にも始まらないと思うんです。」

また、日々出張へいく市橋さんは、自分がいなくても会社が動いていくようにデータベースシステムを作っているそうです。

「自分の会社に合うように自分自身で作っています。ソフトに合わせて自分の会社のやり方を変えるのではなくて、会社に合わせて自分で作るので、使い勝手の良いオリジナルのものができていきます。」

 

コミュニケーションから再起する産地の未来。

 

近年は、異業種の地元の若者を集めて、何でも好きな話をするという会を開いているのだとか。

「この産地はコミュニケーションで成り立っていた部分がたくさんあったのですが、高齢化など様々な要因でぶちぶちと切れ始めています。最近では夏祭りが無くなりましたし、これからはあれもこれもと、どんどん無くなっていくと思います。

スマホなど、人に合わなくてもコミュニケーションできるツールが普及したのは世の中の流れだから仕方がないのですが、人と人とがコミュニケーションを取れる場所というのは、我々の世代が先陣を切って作ってコミュニケーションの場をつくって行かないとダメだと思っています。」

2ヶ月に1回、数ヶ月に1回でも継続して続ける中でコミュニケーションを取り続け、定期的にオープンに話をする場を作り、仕事のヒントが見えるかもしれない。いざというときに、ひと声かけたら集まれて、頑張らないといけないねと言いあえる、チャンスを拾える場所のコミュニティを再生していくというビジョンを立てて、実践を始められています。

現在、末広漆器製作所の事務所で働く人は60代に差し掛かっています。今後できれば若い方を2人程採用したいと社内で話しているのだとか。

「取引先は400社〜500社あるので、やらなきゃいけない仕事はいっぱいあります。その代わりうちはじっと座っていたら怒られますよ(笑)。私は、ズバズバと思っていることや考えていることをオープンに話していく気質なので、一生懸命に努力する根人と一緒にやっていきたいですね。」

面接希望者だけでなく、自分のしっかりとした考えを持つ市橋さんにスパッと斬られたい方が相談に来ることもあるのだとか。年間10万キロ、日本中を駆け巡る市橋社長に興味を持った方は、今すぐwebサイトのスケジュールを確認して、連絡をしてみてはいかがでしょうか。

 

 

【連絡先】
株式会社末広漆器製作所(webページはこちらから)
〒916−1222 福井県鯖江市河和田町8-2
TEL:0778-65-0415
MAIL:info@suehiro-shikki.com

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