久森章裕 | 転々としながら鯖江へ。ゆるい移住を経て繋がってきた暮らし。

「さばえの仕事図鑑」として、鯖江市にある魅力的な仕事を紹介しているこのwebサイト。

働くのは良いけど、住むのって大変なんじゃないか……と考えておられる方もいるのではないでしょうか。

生活環境を変えることはそう簡単ではありません。仕事も暮らしも、すべてが理想通りというのは難しい。いざ住んでみると、その土地ごとの魅力の裏には、それぞれの厳しさが隠れていることもあります。

実際に鯖江市に移住した人たちは、何をきっかけに移り住み、どのように暮らしているのでしょうか。それぞれ全く異なる道を辿ってきた方々のストーリーを紹介します。

 

居候テクニックを磨きながら、友人の家を渡り歩いた2年間。

 

今回お話を伺ったのは、久森章裕 (ひさもり・あきひろ)さん30歳。2015年に鯖江市体験移住事業「ゆるい移住」で鯖江市へ来られ、そのまま定住をされました。現在も鯖江市に住みながら、福井市で炭焼きや木こりをしながら、ドローンスクールの講師やカメラマンとしても活動をされています。

「福井にきて丸4年が経つのですが、すでに県内で5回くらい引っ越しています。福井市に住んでいたこともあって、鯖江には1年前に戻ってきました。ちょっと複雑なんです……笑」

兵庫県神戸市出身の久森さん、26歳から30歳までで、5回の引っ越しとは…、ゆるい移住で福井へ来るまでの暮らしもかなり特殊なようです。

「神戸にいたのは高校までで、大学時代は京都に住んでいました。卒業後は理由が色々あり就職せず、実家でニートをしていた時期もあるのですが、主に首都圏の友人宅を数ヶ月単位で転々とする生活を2年ほどしていました。ときにはラオスに住む友人の元へ行ったこともありました。」


(当時の色んなお宅でくつろぐ姿の写真を提供してくださいました。)

「『これをやる!』ということは決めておらず、ゴロゴロしていました。」

 

今の暮らしの始まり、ゆるい移住に参加して鯖江へ。

 

ある日、「ゆるい移住」のプロデューサーをしている若新雄純さんが企画されたイベントに参加。久森さんはその後ゆるい移住を知り、参加をされたそうです。

ゆるい移住は鯖江市体験移住事業として2015年10月〜2016年3月の半年間実施されました。「家賃無料で住む場所を提供するので、鯖江に住んで好きなことをしてください。」という、鯖江の暮らしを体験できるという斬新な企画です。

「鯖江に移住する前に居候していた友人の家は、滞在期間が長かったので、流石にそろそろ出ないと申し訳ないなと思っていました。」

久森さんにとって好タイミングで実施されたゆるい移住。条件は、「家賃無料」そして「誰でも参加できる」という、当時の久森さんにとってありがたい内容でした。ゆるい移住には事前合宿があり、そこで、個性的なメンバーと出会い、この人たちとシェアハウスをするのは面白そうだなと思い参加を決意されたそうです。

(ゆるい移住体験当時の写真。団地の皆さんと芋煮会。)

「鯖江市が持つ市営住宅を活用して、3LDKの部屋が男女それぞれに充てられ、常に5〜6人で同居をしていました。」

面白いメンバーに恵まれたことで、ゆるい移住の期間が終了した後も「そのまま続けよう」とみんなで家を探し、同じ形態で一緒に住もうと計画し、アパート一棟を借り、みんなで生活されていたそうですが、その後、上手くいかずにメンバー解散となりました。ですが現在もゆるい移住をきっかけに、久森さんを含め6人程が鯖江や福井県内で暮らしているそうです。

 

たどり着いたのは山の仕事。手探りの炭窯作り。

 

「今もやっている製炭の仕事は、もともとゆるい移住期間中に山仕事の手伝いを遊び感覚でやっていたことがきっかけでした。炭窯を作るという福井県の事業があり、福井市の地域団体がたまたま若い人材を探していたところで、『とりあえずやってみないか?』という話をいただき、炭窯作りの事業担当者となりました。」

これまでに山に関わったことも、炭作りに関わったこともなかったという久森さん。炭焼き窯から作り始めたそうですが工法がさっぱりわからず、レンガ調達など一から手探りで行っていったそうです。2年ほど働いた後、久森さんは別の場所に移ります。

「紆余曲折ありましたが今も炭作りをしていて、当時炭窯作り教えてもらっていた方で、里山をフルに活用したビジネスをされている杉本英夫さんに就いて仕事をしています。師匠と弟子というようなカチッとした感じの関係性ではなく、週3~4日で朝から日が落ちる頃まで仕事をお手伝いしています。炭焼きだけでなく、しいたけ栽培、薪作りのお手伝いもしています。」

桑の葉が入ったお茶を淹れてくださった久森さん。

こちらも杉本さんが作っている桑の葉を使ったお茶だそうで、現在は杉本さんが里山を活かして作っておられるものにポテンシャルを感じているため、今後うまくサポートして、お金に繋げていきたいと考えているそうです。

 

環境を保つ木をうまく活用できる。可能性を感じている炭作り。

 

「炭作りの工程を簡単に説明しますと、秋の時期にコナラやクヌギの広葉樹を切って炭窯までトラックで運び、持ち運べるサイズに機械で割って、窯に詰めて行きます。窯に火を入れてそのまま燃やすと全て灰になってしまうので、熱だけを送り込みます。窯を熱くすると木が熱分解を始めて、一週間ほどかけて木が炭化して炭になって行き、窯の温度が800度くらいまで上がる頃には、木の全体がほぼ炭化し終わっているので、煙突の蓋を閉めて窒息させてまた一週間ほどかけて熱を冷まします。」

火を入れてから2週間かけて完成するという木炭。その間、新たな木を切って炭を作るという作業を繰り返します。

見せていただいた炭はお茶炭用に使われるもの。杉本さんのところは窯が3つあり、1つは茶道用のお茶炭用、他は燃料の木炭用の窯として使用されているそうです。

「茶道用のお茶炭には、炭の中心から細かい髄線が綺麗に出ている等の条件がいくつかあり、伐採のタイミングや木の乾燥具合、焼き加減などが重要です。さらに福井の山にはクヌギが自生していないので、今は杉本さんと苗から育てています」

美しい形をしている炭ですが、「窯から出すまで上手く行っているのか分からない」という難しさがあるそうです。国産と海外産で火の持ちも、香りも全く違うそうですが、海外の安い木炭が主流の現代では、製炭を仕事として成り立たせるには、厳しいところがあるとのこと。

「学生さんが作業を手伝いに来ることもあるのですが『大変ですね。』で終わってしまいます。山で切った木を運ぶというのは体力的に大変ですし、窯から出すと全身灰まみれになり、しかも稼げない。そりゃ後継者不足になるわ……という感じですね。」

炭焼きについて語ってくださった久森さんには、炭焼き文化を復活させようという気持ちではなく、良いものを届けたい、また杉本さんのような人が福井にいることを知ってほしいというまっすぐな思いがありました。

炭窯は福井市ですが、お住まいの鯖江市ではNPO法人エコネットさばえが行っている「どんぐりからの森づくり」で一緒に活動を始めています。木を植えて育てたら終わりではなく、森を育てながら、間伐材から炭を作るような循環を生み出そうと企んでいるのだとか。

 

両立をしながらできる、つながりから生まれた仕事。

 

現在、南越前町でドローンのスクール事業を行う会社を経営されている久森さん。代表はゆるい移住やJK課をプロデュースされている若新雄純さんで、鯖江に会社を置いて運営されています。

「僕が趣味でドローンを飛ばしていたところ若新さんから声をかけて頂き、スタートしました。2016年当時、ドローンライセンス発行をしているところも少なく、炭窯作りをやりながらもやってみようと始めて、現在も炭作りとドローンスクールの運営を同時平行しています。」

 

ドローンの仕事は、インストラクターとしても月に2〜3回ほどやっているとのこと。

「炭作りとドローンスクール運営、時々カメラマンをするなど仕事が複数あるので忙しく見えるかもしれませんが、僕自身は忙しいとは思っていません。どれも福井にきて知り合った人のつながりから生まれた事業で、あぁ明日もまた仕事か……という気持ちになった事はないですね。」

暮らす環境を変えながら、のびのびと柔軟に生きてこられた久森さんらしい働き方だと感じました。

 

居候期、ゆるい移住期を経て、ビジネス期へ突入。

 

「ゆるい移住で、福井に来たときは何者でもなく、別にお金を稼ぐことについて悪いイメージがあった訳ではないのですが、仕事は何もしていませんでした。鯖江に来てみんなでワイワイしていただけ。ただ、炭焼きやドローンといった仕事を少しずつ始めて、ビジネスというのも面白い世界なのかもと感じ始めました。」

「僕自身はだらしない人間ですが、誰と関わるか、というのは最近意識をしています。どんな人と関わるかは大切だと思っていて、その辺は強か(したたか)かもしれないです。今やっている炭焼きも炭焼きをしている人となら誰でもいいというわけではなくて、杉本さんとだから出来ていると思います。」

現在お住いの家は、鯖江駅近くのとても立派な一軒家。

久森さんが参加されている「一般社団法人ゆるパブリック」という団体と、接骨院の先生、久森さんの3者で借りておられます。家主の方は普通の人には貸すつもりはなかったそうで、知っている人が入ったほうが良い、地域関係のことならば使ってくださいということで貸して頂いているそうです。

転々としていた頃には、友人の家の合鍵を4軒くらい持っていたり、福井に移住してきた後も月一回は県外に出ようと決めて頻繁に移動をしていた時期もあったそうですが、最近は落ち着いているそうです。

ニートや、ゆるい移住、様々な経験を経て生まれた繋がりを活かしながら、久森さん独自の生き方を自分のペースで掴んでいるように感じました。そんな生き方を受け入れてくれるのも、鯖江市の懐の深さかもしれません。

 

 

【久森さんのお仕事】
本郷木炭生産組合
〒910-3266 福井県福井市足谷町2-20
電話:0776-83-0876
メール:hongo.mokutan@gmail.com

ドローンキャンプ[北陸の空]
メール:info@drone-camp.jp

株式会社akeru(カメラマン)
メール:akihiro_hisamori@akeru.design

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です